第一話〈10〉
その間やることもないので、俺は何となくディスプレイと
サラサラの
だいたい
少し前までは、落ち着いていて大人で人間のよく
しかし人間やっぱり見かけだけじゃ
だってどこの世界に、アキバ系の雑誌をこっそり図書室に
でも
「なあ乃木坂さん」
「はい?」
俺の
「乃木坂さんは、何でこういった
ついそんなことを
けど、乃木坂さんは、
「う~ん、なぜなんでしょう?」
大して気に
「自分でもそんなにはっきりと分かってはいないんです。気が付いたらいつの間にかこうなっていたっていうか……ただ、最初のきっかけはたぶん、アレだと思います」
口元に指を当てて小首を
「はい。今から六年くらい前のことなんですけど……私、お
どこか遠くを見るような目になる。
「その方は
少し
「私、それまでマンガとかそういったモノを見たことがなかったからとっても
えへ、と
へえ。何かいい話だな。まあ小学生の女の子を慰めるために『イノセント・スマイル』を見せたっていう、そのお方の何考えてるんだかよく分かんない
「それが始まりと言えば始まりかもしれないです。それ以来、またあの楽しい気分を思い出したくて、こっそりとマンガとかを読むようになったから。だから……今でも『イノセント・スマイル』には特別な思い入れがあるんです」
なるほどね。だから決して小さくないリスクを
「ええと……これでお終いです」
ぽん、とエンターキーを
とそこで乃木坂さん、ようやく俺の
「な、何でしょう? 私の顔に何かついてますか?」
少し
「いや……ヘンなお
俺は思ったままの感想を口にした。
「えと、本人に面と向かってそういうことを言うのは失礼だと思います……」
とは言いつつも、そんなにイヤそうではない。というかどこか
「それにお
「そりゃどうも」
何の選手権だ、それは。
「……」
「……」
「……ふふっ」
「……はは」
次の
どれくらいそうしていたかな。
しばらくしてようやく笑いの
「私……もうオシマイだと思ってました」
「オシマイ?」
「はい」
乃木坂さんがこくんとうなずく。
「あの時、
まあそれは
ん、でもちょっと待てよ。乃木坂さんのその口ぶりからすると──
「あのさ、もしかして乃木坂さん、俺が乃木坂さんがアキバ系だってこと、
そういうことになるよな?
すると気まずそうにちょっと目を横に
「ご、ごめんなさい。あの時はまだ綾瀬さんのことどういう人なのかよく分からなかったから、そういう
「喋ったことがないって……」
乃木坂さんが? 『
「男の人はみんな、どうしてか私に対しては
それはたぶん、
乃木坂さんが続ける。
「そんなわけだから、あの時はもう本当に何もかもオシマイだと思ったんです。いっそそのままどこか遠くへ旅に出てしまおうかと思ったくらいで……。でも、私の
だから、と言って、乃木坂さんは俺の前にちょこんと立ち、
「本当に……ありがとうございました」
はにかみながらスカートの
思わず
ガタリ、バサバサ。
「!?」
「い、今の……何の音でしょう?」
乃木坂さんが光速を超える
「ほ、
「まさか、
いない。……と、思いたいが。
「ど、どうするんですか?」
不安げに乃木坂さんが俺の顔を見上げてくる。ここでの
ともあれここは普通に考えれば②が
「あ、綾瀬さん!?」
「ちょっと
と、
「わ、私も行きます」
「え、でも
「ここに一人で置いていかれる方がよっぽど怖いですっ」
そりゃそうかもしれんな。
「じゃ、行くか」
「は、はい」
というわけで二人して、
「たぶん、聞こえてきたのは
「楽譜?」
そんなものまで置いてあるのか。ま、『イノセント・スマイル』が
「こ、こっちです」
勝手知ったる乃木坂さんに
ヴィンヴィンヴィン。
バサバサバサ。
続いて本が落ちるような音がした。
「ひっ……」
乃木坂さんが、
「い、い、今の……」
目に
「や、やっぱり『読書する死者』……に、
「いやちょっと待て……これって」
本が落ちる音は止んだが、もう一つの異音はいまだに聞こえている。ヴィンヴィンヴィンヴィンヴィン。どこかで聞いたことがある音だな。えーと……あ、これってまさか。
「あ、綾瀬さん!」
本棚に近づいてみると、その
「……
楽譜がいくつも
「……しかも、何か
アルファベットが集まってYUKARIと、なっているストラップ。ああ、そういやあの人、
「
「原因分かったって……」
「ああ、人騒がせな原因はコレ」
持ち主の心とは正反対の真っ白な携帯を見せると、気が
「あ、安心したら力が抜けちゃいました」
ほんとに
「ぷっ……」
思わず笑ってしまった。すると乃木坂さん、ぷーっと
「な、何でそこで笑うんですか。そこは笑うところじゃないです。しょ、しょうがないじゃないですか。ほんとに
と
「もう……ほんとにヘンな人」
「それはお
そしてまた二人して顔を見合わせて、思いっきり笑った。
もしかしたら、明日あたりには新しい
5
さてこれにて
校門を出たところで、乃木坂さんがぺこりと頭を下げた。
「今日は本当にありがとう。
楽しかった。うん、確かにその表現は不穏当だが、
「どういたしまして。俺も楽しかった」
これは正直な気持ちだ。
「あの……
「あ、
その表情は
うーむ。何を
「分かった。春香……でいいんだよな?」
「うん!」
すげぇ嬉しそうな顔でうなずく乃木坂さん……いや、春香。うう、何か今さらだけど春香って、めちゃくちゃかわいいんだよな。
「……だったら、俺のことも
何となくそれ以上春香を見ているのが
すると「仲いいヤツ……」とつぶやいた後に、春香はもう一度笑った。教室では見せない、心からの
「分かりました。裕人さん、これからもよろしくお願いしますね」
これが俺と乃木坂春香との、ある意味
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