第三話
第三話〈1〉
0
六月に入り、
放課後、俺はせっせと音楽
「ごほっ、げほげほ……」
音楽準備室は
妻に
「ひでぇ……」
思わずそんな
ある
片付けても片付けても片付かない音楽準備室(最悪)を見て、深々とため
さて、何だって俺がこんなことをやっているのかというと、これもひとえにこの部屋の主である音楽教師にしてうちのクラスの副担任(片付けられない女)が
今から
「ねえ
ホームルームも終わり、帰り
「全然ヒマじゃありません。まったくもって、これ以上ないくらい
「実は、裕くんにお願いがあるのよね~」
「イヤです」
「聞いてくれたら、おねいさん、
「
「松コースと竹コースと梅コースがあるんだけど、どれがいい?」
「……俺、帰りますんで」
相変わらず人の話を全く聞かないアホな人は放っておいて帰ろうとすると、
「ちょ、ちょっと待ってよ」
がっちりと
「……何ですか?」
「だから、お願いがあるって言ってるじゃない」
「だから、俺もイヤだって言ってるじゃないですか」
この人の『お願い』にはロクなものがない。
「そんなこと言わないで、聞くだけでも聞いてよ、ねっ?」
とはいえ、聞くだけは聞かないと帰してくれなさそうな
「……まあ、聞くだけなら」
「うんうん、
ぎゅっとその
「で、何なんですか?」
「実はね~、今朝、学年主任の先生から
「何て?」
「今日中に、音楽
「……さようなら」
くるりと
「ま、待ってってば。何で最後まで聞かないうちに帰ろうとするのよ~」
「聞かなくても分かりますよ。どうせ俺に片付けを
「あ、
「違う?」
と、この人に限ってそんなことを考えたのは甘かった。
「うん、違う。あのね、手伝ってほしいっていうか、私の代わりに一人で掃除をやっといてほしいのよね~」
「……」
この人、何考えて生きてるんだろう。
「……いっぺん死んでください」
「だ、だから待ってってば。私だって本当は
「……どんな用事ですか?」
「『
「……は?」
「だから~、今日はこれから『SerapH』のライブがあるのよ。半年前に予約してやっとのことで取ったプラチナチケットなの~。これに行けなかったら私、
「それ……本気で言ってるんですか?」
「もちろん。本気よ」
授業中にも見せたことのない
ちなみに『SerapH』とは由香里さんお気に入りのビジュアル系バンドの名前である。
「お願い
ほとんど
そうまでされると、
「……分かりましたよ。分かりましたから
「えっ、やってくれるの?」
「……まあ、いちおう」
そう答えると、ビジュアル系大好きの二十三歳女教師は身体いっぱいに喜びを表現した。
「ありがとう~。だから裕くんって好き♪」
「……それはどうも」
と、そういうことである。
以上のような
「ひどすぎる……」
半ば
何だかものすごく
ポロン♪
ふいにピアノの音が
空耳かと思い最初は気にしないことにしたが、しばらくしてどうもそうじゃないらしいことに気付いた。耳を
ちらりと
真っ先に頭に
──まさか、なあ。
そっと音楽準備室の
少し
「……」
一気に力が
「……」
演奏に集中しているのか、春香は俺の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます