第二話〈5〉
3
昼メシの時間となった。
しおりによると、昼食は『キャロット・キュロット』という店に決まっているらしい。
「この店、どんな店なんだ?」
ファミレスか何かだろうか。店名だけじゃよく分からん。
俺のその質問に、
「
重要イベントね。ふむ、よく見ると確かにしおりの店名の横に花丸が付いてるな。ちなみに今まで気付かんかったが(というか心が
「ふんふ~ん♪」
歩きながら、
だがそれとは正反対に、俺の心は
「着きました。ここです」
春香の声で我に返る。どうやらうだうだと色々考えているうちに、いつの
「良かった、
春香の声は
さて、春香お
「……あれ?」
別に、どこにでもある
ちょっとこじゃれた感じの、いかにも女の子ウケしそうなかわいらしい外観。窓ガラスからちらりと見える
「いらっしゃいませ~。ご
おっと、もうウェイトレスさんが注文を取りに来たか。まだこの『
俺はメニューから顔を上げて、
「あー、すみません、まだかかりそうなのでもう少し──」
待ってください、とは続けられなかった。
ついでに
「……」
「どうかなさいましたか、お客様?」
そこにいたのは……何というか、メイドさんだった。白いフリフリのエプロンドレスに同色のカチューシャ(みたいなもの。正式には何ていうのかは知らん)を
「お連れのお客様もまだでしょうか~?」
「あ、はい。もう少し待っていただけますか」
「そうですか~。
銀色のトレイを持ったネコミミメイドさんがうなずく。……ネコミミメイドさん。自分で言ってて何だが、すごい表現だな。
「それではご注文がお決まりになったらお
「あの春香……ここって」
「?
いやそれくらいは分かってるんだが……。そうじゃなくて、いつから日本の喫茶店はメイドさんが
「ここのウェイトレスさんの
「……」
……ちょっと待て。今、みなさんって言ったか?
なるほど……やっぱそういう店だったわけだ。
メイド喫茶。確かにそれならメイドさんがウェイトレスをやってるのにもうなずける。というかそれが売りなんだろうから当然だろう。メイド喫茶でメイドさんがいなかったらそれはそれで
だからまあ百歩
「……なあ、何でみんな、頭にネコミミが付いてるんだ?」
そこが最大の疑問だ。おまけによく見ればシッポが付いているメイドさんまでいるし……。あれには学術的に一体どんな意味があるのか。
「ええと、かわいいからじゃないでしょうか」
春香は実に単純明快な答えを出してくれた。
「メイドさんはそのままでもかわいいですけれど、そこにネコミミを付けることによってさらにかわいさあっぷです。一+一が二じゃなくて三にも四にもなる
にこにこと笑う春香。そんなかわいく同意を求められても
「いいなあ、かわいいなあ……私も着てみたいなあ。今度
夢見るような
──って何考えてんだ俺は! これじゃネコミミメイドがツボだとか何とか言ってたあのアホと変わらんだろうが!
あまりに頭の悪い
「
「……何でしょう?」
それはきっと俺にとってはいいことでないと思う。もう
「写真を
「は?」
「せっかく来たんですから、メイドさんといっしょに記念
「いやちょっと待て──」
俺が止める
「すみません、あの……いっしょに写真を
テーブルの
「すみません、当店では写真撮影はご
とネコミミメイドさん。
「え、そうなんですか……?」
「はい。
ネコミミメイドさんが頭を下げる。よ、良かった。春香には悪いが、おかげで店内での写真撮影なんて半ば
──と
「ダメ……ですか。メイドさんと写真、撮りたかったのですが……」
捨てられた
「お客様、こちらまでお
「?」
「え~と今、店長に
「ほんとですか? ええ、それでいいです。ありがとうございますっ」
花が咲くような
かくしてこの日、『
さて(
「あれー、もしかして
人ゴミの中から、あり
とりあえず他人のフリをしてあさっての方向を見たのだが、ヤツはそれで
「ねー裕人だよねー?」
「……」
「裕人ー?」
「……」
「あー、ムシだー。そういうことするんなら僕にも考えがあるよー」
「……」
「ふーん、いいんだねー。あのねー、
「……分かった。俺が悪かった、
「けど信長……何でお前がここに?」
「ん? 変なこと
……そういやそうだった。
「ま、今日はちょっと用事があったんだけどねー。あ、正確には昨日からかー。てゆーかこっちにしてみたら裕人がここにいるってことの方が
お前の誘いだからイヤなんだよ。こいつとこの街の組み合わせは俺にとって最悪のカップリングである。盆と正月どころか
まあそれはともかくとして、確かにこいつの言う通りこいつがこの街にいることは驚くべきことじゃない。それはある意味海に魚がいることが当たり前のようなもんだ。真性アキバ系であるこいつが、休日にここにいなくてどこにいるのかって感じである。
問題は、
「どしたの裕人ー、顔色悪いよー」
「いやちょっと
「へー、
頭痛のタネがそんなことを言いやがる。
「あー、それより信長、お前も色々
「えー、そんなことないよー。メインイベントはもう終わったしー、特に急いでやらなきゃいけないこともないしー」
「でも俺といても
「何か裕人、僕にどっか行ってほしいみたいだねー」
「い、いやそんなこと……」
めちゃくちゃあるんだがな。少なくとも春香が
「ふーん……ま、何でもいいけどさー。分かったよー。もう用事は
本当に眠そうな顔でカバみたいに大きな
「昨日からちょっとしたイベントがあってねー。
何かこいつはこいつで色々と
「じゃーねー
右手に持った紙袋をぶんぶんと
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