第三話〈9〉



    5



「それではまた明日学園で、ですね」


 門まで送りに来てくれたはる名残なごりしそうにそう言う。


「こちらがさっきのプラムプディングです。他に、少しオマケもつけておきました」


 わたされた紙袋には「ワンちゃんへ♪」と書かれた字の横に、何かごくの番犬ケルベロスみたいな生き物がきように満ちたあつせんをこっちに送っていた。何から何まで突っ込みどころまんさいのステキなお土産みやげである。


「あの、よかったら駅まで車でお送りしますけど……」


「ありがたいけどえんりよしとく。大したきよじゃないから、歩いていくさ」


 春香の申し出をつつしんで退たいした。いや、だって十分もかからない距離だしさ(ちなみにしき内から門まで徒歩二十分である)。


「おに~さん、気をつけて帰ってね」


「ぜひ、またおしください」


 春香だけでなく、づきさんも見送りにきてくれていた。ここまでわざわざ来てくれたことが、少しうれしい。


「じゃ、また」


 門の前で手をっている三人に手を振り返して、俺は駅へと向かって歩き出した。


 何だかんだで、今日はいい日だったと思う。


 美夏や葉月さんといったおもしろい人たちと知り合うこともたし、春香のことを今までよりも知ることが出来て、何だかもう少し身近に感じられるようになった気がする。行くちゆうで道にまよったり、はいのないメイドさんにおどかされたり、美夏に色々と答えにくいことを突っ込まれたりもしたけど、それだけで今日は俺にとっていい日だった。


 こんな一日が、これからもたくさんあるといいんだけどな。






 さて、これは全くもってだんであるが。


 春香からもらったお土産をうちのワンちゃんにわたしたところ、


「おお、これはいな。こっちのすもも味のプリンもいいが、特にこのくんせいにくぜつぴんだ。日本酒にとてもよく合う。いささか味がうすいような気もするが、それはまあごあいきようだろう。もらったものにもんを言ったらバチがあたるな」


 と喜んでいた。じように喜んでいた。


 すもも味のプリンとはおそらくプラムプディングのことを指しているんだろう。まんまな表現であるが、横文字に弱い人だからそれはいい。それはいいんだが──


「……くんせいにく?」


 そんなもん入ってたのか? そういえばはる、オマケを付けたとか言ってたような言ってなかったような……


 イヤなかんがして、おそおそる姉のかたわらに置かれているモノをのぞんでみる。


 そこには、大きく『最高級ビーフジャーキー』とさいされたふくろがあった。……ただし、その横に『犬用』と書かれた。


「……うわ」


 さいわいなことに、すでにぱらっている姉はそれに全く気付くことなくじようげんでジャーキー(犬用)を口にしている。そんな姉を横目で見つつ、俺は無言でジャーキー(犬用)を全部袋から出すと、家にあったビニールパックにそれらを移し替え、『犬用』と書かれた方の袋をゴミ箱にそっと投げ入れた(しよういんめつ)。だってバレたらたぶん……コロされる。


「ん、どうした?」


「あ、い、いや。湿るとまずいだろうから、袋、入れ替えておいたぞ」


「おお、すまんな」


 めずらしく礼などを言って、ルコはさらにジャーキー(犬用)に手を伸ばした。よほどこれ(犬用)が気に入ったみたいだ。


 まあ食べても死ぬことはないだろう。というか、最近のペット用食品は人間が食べるものよりも高品質であるという話も聞く。だからだいじようだ。おそらく。


「……じ、じゃあ俺はもう寝るから。ルコも早く寝ろよ」


「ああ。これを飲んだら寝るよ」


 そして俺はリビングをあとにした。


 けつきよく、その日のうちに春香からのお土産みやげであるビーフジャーキー(犬用)は、全てルコの腹の中におさまったのだった。

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