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「お前は、もう俺の妃なんだろう?」


「まだ! まだです! 陛下に、お許しもいただいてないのに……」


「父上は、俺の愛した相手なら誰でもいいそうだ」


 それが、たった一つだけ国王から出された王太子妃としての条件だった。


 いずれ国の流れとして妾妃を持つことは構わない。だが正妃だけは、愛する女性を自分で選べと国王は彼に告げていた。


 その言葉を聞いて、アディが目を丸くする。


「……あの」


「なんだ」


「愛して……くださっているのですか? 私を……」


 ルースがその体をこわばらせた。動揺する彼の様子から、アディはその質問の答えを知る。


「ただ面白い女、だから妃にするのではなく、殿下は……」


「黙れ」


 そう言って、アディが口を開く間もなくルースは口づけを落とす。アディはわずかに抵抗するが、力強い腕に抱き込まれてそれ以上動けなくなる。


 長い長い沈黙の後、ようやくルースはアディから離れた。


「……でん、か……」


「名前で、呼べ」


「……テオフィルス様……」


 それが、彼の本当の名前。


 潤んだ瞳で見上げたまま、アディは少しだけ意地悪に微笑んだ。いつも彼がそうしていたように。


「図星、でしたか?」


 その言葉を聞いて、ルース――テオはにやりと笑った。


「生意気な口をきく。どうやらお仕置きが必要らしいな」


「え……」


 テオは、アディを抱き上げると、ふわりとソファへと押し倒した。


「あのっ、テオフィルス様……!!」


「覚悟しろ。もうずっと我慢していたんだ。ようやく、お前に触れられる」


「でも……んっ!」


 アディの上にのしかかったテオは、アディの文句を言葉ごと飲み込んだ。抑え込む力の強さとは裏腹に、長い指が優しくアディの頬をなぞる。


「……ん……」


 テオのもう片方の手が、アディの細い腰の線をなでおろす。しばらくは暴れていたアディだが、吐息すら飲み込むテオの唇を受けて、次第にその体から力が抜けていく。ふるりとアディの体が震えて最後の力が抜けたのを感じたテオは……


 その時、廊下から衛兵の元気な声が聞こえた。


『殿下っ、陛下のご用意が整いましたっ』


 ち、と執事にも王太子にもあるまじき舌打ちをした後、テオは体を起こした。アディの体を片手で起こすと、名残惜しそうにそのこめかみに口づける。


「来い。父上に紹介する」


 まだ夢心地のアディは、操られるようにテオの手をとった。その様子を見て、テオが薄く笑う。


「しっかりしてください。せっかく私が指導したのですから、立派な王太子妃として振る舞うのですよ」


 急に執事の口調に戻ったテオに、アディは我に返ってあわてて背筋をのばした。その口調で言われると体が勝手に緊張してしまう。もはや条件反射の域だ。


 それを、テオはにやにやと笑いながら見ている。


「面白いな。しばらくはこれで楽しめそうだ」


「本当のあなたに戻っても、意地悪なところは変わらないのですね」


「これが地だ。慣れろ」


 膨れて返事をしないアディの小さな手を、テオはきゅっと握った。


「では、まいりますよ。お嬢様」


「……はい」


 まだ少しだけぼんやりしていたアディは、きっとこれからもこうやって彼にからかわれていくのだろうな、という予感をひしひしと感じていた。

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