- 10 -
ちらりと視線をあげてアディを確認すると、ぎりぎりポーレットの腕をしめあげながらルースが言った。
うつぶせに押さえつけられたポーレットの顔が青く見えるのは、薄闇のせいだけではないだろう。
静かに、ルースが続けた。
「あなたが、刺客だったのですね」
「……刺客?」
何が起こっているかわからないアディは、とまどいながらその様子を見ている。
「ええ。この方は、殿下を狙った刺客だったのです」
「え?!」
アディは、まじまじとポーレットを見つめる。ポーレットは、うつむいたまま動かない。
「ウィンフレッドも罪なことをする。あなたにこんなひどい命令を……」
「違います!」
突然、顔をあげてポーレットははっきりと言った。
「わたくしが、勝手にやったことです。ウィンフレッド様は関係ありません!」
「けれど、あなたが王太子妃候補として王宮に入るように手配をしたのは、ウィンフレッドと縁戚関係にあるあなたの叔父ですね」
青ざめながらも、ポーレットは気丈にルースを見返して口を開いた。
「……王太子が病弱でもう長くないなんて、やっぱり嘘なんですね?」
「誰かに、そう吹き込まれましたか?」
返事をしないポーレットに、ルースは淡々と続ける。
「王太子が病弱なんて王宮のついた嘘だ。王太子妃を迎えて万が一跡継ぎでもできてしまったら、ウィンフレッドはもう王太子になることができない。だが、もしあなたが王太子妃となれば、殿下を殺して王太子をすげかえることはいつでもできる。けれど、他の令嬢が王太子妃になればその機会もなくなる。……あなたが聞いたのは、そんなところですか」
ポーレットは何も答えない。
「アデライード様が王太子妃になる確率が高まったので、その前に王太子を殺しに来ましたね?」
唇を噛んだポーレットの表情は、ルースの言葉をそのまま肯定していた。その頬に、涙が伝う。
「だって……あの方は、わたくしには何も言わないけれど、本当は王太子になりたいのだと……王太子となって国のために働きたいはずだと……だから、わたくしは……」
「ウィンフレッドが、それを?」
それを聞いて、ポーレットは、はっと一度目を見開くと、がくりと首を落としてシーツに埋もれた。おそらく、ウィンフレッド本人から聞いた言葉ではないのだろう。
ポーレット自身も、半信半疑だった。
彼女の知るウィンフレッドは、わがままで自分勝手でずるくて、でも王太子を殺そうなどという大それた考えなど持つことなどできない小心者で優しい男だった。
けれど、王太子になることが、口にはできない彼の望みだよと何度もささやかれ、最初は否定していたポーレットですらも、もしかしたら、と疑いを持つようになってしまった。
いつまでも正妻を持たないのは、王太子妃を正妻にするためだよ、もしかしたらそれは君になるかもね、という甘い言葉に、夢を見てしまった。
ポーレットの間違いは、それをウィンフレッド本人に確かめなかったことだ。
「ウィンフレッドが言わなかったとしても、本当に知らなかったかは疑問ですね。彼は小心者ですが頭の切れる男です。直接あなたに話したことがない、という事実を作って、ことが露見した時にはあなたを切り捨てるつもりだったかもしれないですね」
「まさか、私の命を狙ったのも……?」
信じられない気持ちでつい呟いてしまったアディの言葉を聞いて、ポーレットが勢いよく顔を上げた。
「アデライードが?! 狙われたのですか?!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます