イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
いずみ
プロローグ
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キリリシア王国の王宮では、今夜も華やかなパーティーが開かれていた。
灯された明かりが、いくつものシャンデリアを通して輝いている。豪華なベルベットのカーテンがかけられた窓の向こうには、やはり庭に灯された明かりがちらほらと美しい。
細かいレース織りのテーブルクロスの上を見れば、ふんだんに砂糖を使った焼き菓子や幾種類ものサンドイッチが用意され、貴族たちをもてなしていた。
楽隊の弦の調べは、彼らの会話を邪魔しないように静かに、だが上品に流れていた。
そこかしこで笑いさざめいている着飾った紳士や淑女は、かなりの数にのぼる。特に今夜はいつもと趣向を変えて、それぞれが仮面をつけて集う仮面舞踏会だ。目元や顔を半分隠した仮面ではその素性を隠しきれるものではないが、それでも、通常よりは開放的な気分の者も多い。
「そう言えば、王宮ではいよいよ王太子妃の選定が行われるのですって」
きらきらとした雲母を大量に仮面につけた夫人が、思い出した風を装って言い出した。
「まあ。テオフィルス殿下の?」
「ようやく、ですわね」
別の夫人がさりげなく話に食いつくが、それは今の社交界でもっとも関心を持たれている話題だ。たちまちその話を耳にした婦人たちが群がってくる。
「ええ。何人かのご令嬢のところにお声がかかっているようですけれど……」
言いよどむ夫人に、他の婦人たちもしたり顔でうなずく。
「あれでは、王太子妃を望む家など見つからないのではありませんの?」
「そうみたいですわね。なんでも、ことごとくお断りをされているとか」
「王太子妃を断るなんて、そんなことあるのですか?」
すっぽりと頭からかぶる鳥の仮面で顔の上半分を隠した男性が、持っていたワインのグラスをテーブルに置きながら言った。声の調子からして、かなり若い青年らしい。
「まあ、ご存じないの?」
ここぞとばかりに夫人たちが口を開く。
「今の王太子様はご病弱であられて」
「年の半分は別荘で療養されていて」
「普段王宮にいる時も、離れの宮でほとんど寝たきりだとか」
「あれでは、王太子としての務めを果たせるのかどうか……」
「それに、ほら、もうすぐテオフィルス殿下も二十五歳ですし」
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