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この国では、二十五歳までに婚姻していない王族は、王位継承権を失ってしまう。つまり、現王太子は、今年のうちには結婚をしていないと、来年は王太子ではなくなるということだ。
だが、いつ亡くなってもおかしくない病弱な王太子に年頃の娘をむざむざと嫁がせる貴族などいない。
この時代、結婚といえば家と家を結ぶ政略結婚が普通だ。未婚の娘は、それぞれの貴族の大事な切り札となる。自身の地位や権力のために、より有益となる家を選んで嫁がせるのが慣例となっていた。
王太子妃の座は魅力的だが、その王太子の首が挿げ替えられるかもしれないという、今はかなり微妙な時期であった。
「どちらの家のご令嬢が、王太子妃になるのでしょうねえ」
さすがに、次の王太子のことは、などとは冗談でも話題にしにくい。話は自然と、いまだに決まっていない王太子妃のこととなる。
「未婚の方といえば、フォーラスのロザリンド嬢に、バナシルの子爵令嬢……」
「メイスフィール公爵令嬢にも、まだご婚約者はおりませんことよ?」
女性たちの目が一斉に、中央付近にいる金髪の女性に向けられた。仮面についた羽根飾りを揺らしながら、どこか不機嫌そうに年配の男性と話をする若い女性がいる。
「ネイラー男爵も、真ん中のお嬢様がまだ未婚とか」
「でしたら、ロザーナの伯爵令嬢もお年頃で」
「モントクローゼス伯爵令嬢ですわね。あの方も、王太子殿下と同じでかなりの病弱な方だと聞いておりますわ」
「お美しい方でしたわね。けれど、デビューなされた時以来、わたくしお会いしておりませんの」
「私もですわ。伯爵に聞いても、気分がすぐれないとか具合が悪いとかであまりよいお話は聞きませんし」
「ほほ、ちょうどよいのではございません? 病弱同士ならば、すぐに次代の御代に」
「奥様。それ以上は」
少し年配の女性が、笑った女性をたしなめる。誰が誰だかまったくわからないわけではない。後に遺恨を残すような発言は好まれない。
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