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「王宮の方は執事もやはり素敵なんですね」
扉を閉めて、先ほどのメイドたちと同じ目をしたスーキーが言った。
「どこがよ!」
「何を怒っているんですか、お嬢様」
「あの、ペテン師! 何が、お休みください、よ。騙されたらだめよ、スーキー!」
「はあ」
ばんばんとソファに置かれたクッションを叩きながら文句を言うアディに首を傾げながら、スーキーは荷解きを始めた。その横でアディは、がすっ、と最後の一発をクッションに入れて顔をあげた。
「よしっ!」
「それよりもお嬢様、お支度をお着替えください。またあとであの執事さんがいらっしゃるそうですから。もしかしたら、他の方との顔合わせかもしれませんね」
妙に気合の入っているアディを放っておいて、スーキーはさっさとクローゼットを開けた。滞在中のアディの荷物は、事前に送ってある。
「あら?」
「どうしたの、スーキー」
驚きの声をあげたスーキーに、アディは振り向く。
「これ……ドレスが増えてますよ、お嬢様」
「はい?」
王宮に来るために、アディはいくつものドレスを新調していた。家を出る娘のために、父がなけなしのお金を工面して作ってくれたドレスだ。だがクローゼットの中には、それよりも豪華なドレスが何着も、アディのドレスと並んで下がっていた。
「なに、これ」
「何でしょう。王宮で用意してくれたものでしょうか」
ここがアディの部屋と案内された以上、そうとしか思えない。アディは、父の用意してくれたドレスを否定されたような気がして面白くなかった。
「これにするわ」
アディが手にしたのは、色とりどりの刺繍が施された銀色のドレスだった。アディのグレーの瞳に合うように、と父が指定して急いで作らせたものだ。アディの持ってきたもののなかで、一番手がかかっている。
「私は、こちらの空色か藍色の方がいいと思いますが……」
スーキーが言うように、クローゼットの中に用意されていたドレスはどれも、アディの明るい金髪に似あいそうなものばかりだ。
「いいの。手伝ってちょうだい」
なんとなくアディの気持ちを察したスーキーは、それ以上は何も言わずにアディの支度を手伝い始めた。
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