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アディがドレスを着替えて髪を整えていると、軽く扉がたたかれた。
「はい」
スーキーが扉を開けると、そこにいたのは先ほどの執事だった。
「アデライード様をお迎えに参りました」
「はい。どうぞ、お入りください」
スーキーが部屋へ通すと、その執事はアディに礼儀正しく挨拶をした。だが頭をさげる前のほんの一瞬でその執事がアディの全身をチェックしたことを、アディは見逃さなかった。
(食えない執事だわ)
アディが黙って礼を返すと、執事は口を開いた。
「私はルースと申します。こちらの王宮にいる間、アデライード様の専属となりますので、よろしくお願いいたします」
美青年が専属になると知って、スーキーはぱっと顔をほころばせた。アディは、扇で顔を隠したままよろしくと短く言った。
「この度は王太子妃候補となられましたこと、心よりお祝いを申し上げます。これより、他の候補者のかたがたと共に殿下にご挨拶にまいります」
え……
思わずアディは驚きの声をあげそうになって、さりげなく口元を扇で隠した。まさか、王宮にきてすぐに王太子に会えるとは思っていなかったのだ。
スーキーにはその部屋で待つように言った後、その執事はアディを連れて部屋をでた。
後ろをついて歩きながら、アディは執事の背中に小さく声をかける。
「あの……」
「何でしょう」
「私の部屋に、覚えのないドレスがございました。あのドレスはどうしたことでしょう」
ルースと名乗った執事は、少しだけ顔をアディに傾ける。その横顔は、どこか得意げだった。
「お気に召されましたか? アデライード様のご到着に合わせて急いで用意させたものです。そのドレスも素敵ですが、あちらのドレスは全てキリリシア王国最高のデザイナーと高名な、かの」
「私には必要ありません」
言葉を遮られたルースは、立ち止まってその目を細めた。
「まだ王太子妃に決定したわけでもない私に、そこまでしていただくわけにはまいりません。持参したドレスで十分です」
「……王太子妃候補とはいえ、人の目もございます。この王宮にいる間は、それなりのものを身につけていただきます」
急に冷たくなったルースの言葉に、アディは、ぎゅっと扇を握る。
「それは……わたしの持ってきたドレスでは王宮に相応しくないと……?」
「まさか王太子妃になろうという方が首都の流行りをご存じないとは思いませんでしたので、こちらで数着見繕わせていただきました。あの部屋にあるドレスやアクセサリーは全てアデライード様のものです。どうぞご自由にお使いください」
馬鹿にしたような視線を受けて、アディの目の前が怒りで真っ赤になった。
だが、アディは、ふるえるほど扇を握りしめても、その怒りを口に出すことはしなかった。
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