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「王太子妃の選考基準はどのような?」


 エレオノーラが聞くと、ルースはエレオノーラに向き直る。


「私が、テオフィルス様に相応しいと思う女性、それだけでございます」


 ということは、最終的な決定権までこの執事がもっているということだろうか。さすがにそれはアディにとっても驚きだった。


「あなたになんの権限があるというのですの?」


 ルースの答えが気に障ったらしく、エレオノーラは少し苛立ったような声を出した。


「私は、テオフィルス様に一番の信頼をいただいている筆頭執事です。私の言葉はテオフィルス様のお言葉と思ってください」


 言い切った顔は、自分が王太子からの絶対的な信頼を得ているという自信に満ちていた。王太子の寝所にも入れることを考えれば、おそらくその言葉は嘘ではないだろうし、ルースの言葉や態度からも、それを誇りに思う気持ちが伝わってくる。


 先を望まれない王太子、とアディは少しの寂しさを感じていたが、こんな風に王太子を大切に思う人も確実に存在するのだ。その事実に、アディは胸が温かくなるような気がした。


 その執事の性格には、いくばくかの問題があるようだが。


「わたくしは、王太子妃となるべくここへまいりました。たかだか一人の執事にその有無を判断されるなど、とうてい承服できません」


「では、その扉を出ていますぐお帰りいただいて結構です。ただし」


 うっすらと笑みを浮かべて、ルースはエレオノーラを見おろした。


「メイスフィール公爵家令嬢は、ただの一日も王太子妃としてのレッスンに耐えられなかったと風評が流れても責任はとりかねますが」


 言葉は丁寧だが、慇懃無礼なその姿に、アディを含めて三人の王太子妃候補は絶句する。


 これは大変な執事が相手だ、とアディはこっそりとため息をついた。おそらく、他の二人も気持ちは同じだったに違いない。


 沈黙したアディたちを見渡して、ルースは平然と言った。


「これから一刻後に、早速この部屋で講義を始めます。それまでは、各自の部屋でおやすみください」


「……講師は、どちらの博士が?」


 聞いたエレオノーラも、答えはほとんど予想していた。


 メイドたちがいたら歓声をあげそうなほどしっとりとした美しい笑みを浮かべて、ルースは答える。


「私です。それでは、一刻後に」


  ☆


 メイドに案内されてアディが自分の部屋に戻ると、待ってましたとばかりにスーキーが飛びついてきた。


「お嬢様! 王太子殿下はいかがでしたか?」


「えーと……会ったような会わなかったような……」

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