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  ☆


「まあ、なんて美しい妃殿下なのでしょう。テオフィルス殿下もお幸せなことですね」


「恐れ入ります、コルシデ男爵夫人」


 結婚式に続いて、王宮の大広間では王太子夫妻のお披露目が行われていた。


 そつなく挨拶を返すテオの隣で、ドレスを着替えたアディは恥じらいつつ笑みを返す。


 アディが着ているドレスは、テオがアディのために用意した藍色のドレスだ。そのドレスは、アディの髪と瞳の色を引き立ててアディをさらに魅力的に見せていた。


「お疲れではございませんか、奥様」


 次々に続く挨拶に対応するアディを気遣ったスーキーが、人波が切れたのを見計らってそっと声をかけてきた。


 アディが伯爵令嬢であったときには公の場には姿を出せなかったスーキーだったが、今のアディは王太子妃だ。侍女としてその身の周りの世話をするために、このようなパーティーでもすぐそばに控えるようになっていた。


「大丈夫よ、スーキー」


「アディはよくやっている」


 そっと腰を引いて、テオがアディの髪に口づける。アディはあわてて離れようとするが、テオは引き寄せた腰をがっちりと抱きしめて離さない。周りにはわからない程度に、アディが柳眉をひそめた。


「テオ、人前ですよ」


「気にするな。そこいらにいる連中は俺たちの様子に興味津々だぞ? せいぜい夫婦仲のいいところを見せつけてやればいい」


「そういうわけには……」


「そうですよ。新婚の王太子は、奥様にべたぼれで使い物にならないと陰口を叩かれたくなかったら、少しは自重してくださいませ、殿下」


 厳しく注意をしたのは、スーキーと一緒に控えていたマルセラだ。


 マルセラは、テオの乳母で、今はその侍女を務める女官だった。今はスーキー同様、アディの侍女としてそばに仕えている。


 アディが最初にテオに挨拶をした時に同じ部屋にいたのだが、薄暗い部屋でその顔まではよく見えず、後に会った時にもアディは全く気づかなかった。


「言いたい奴には言わせておけばいい。その分、実力で黙らせてやる」


 その言葉通り、公に王太子として出るようになったテオフィルスは、今までの遅れを取り戻すかのように、国王の補佐として精力的に政務をこなしていた。


 アディは、なんとかさりげなくテオの腕を振り払おうとするが、テオはその手を離さない。


「それとこれとは話が別です!」


「正式な夫婦になったんだ。恥ずかしがることもないだろう? なんだったらもっと……」


「失礼します。殿下」


 テオが調子に乗ってさらにアディをからかおうとした時、背後からやってきたフィルが硬い声をかけた。身代わりを務める必要のなくなったフィルは、今はもう元の執事としての生活に戻ってテオに付き従っている。


 フィルの声にふり向いてその指し示す方に視線をむけたテオの顔が、やにわに緊張した。

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