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☆
「なんだかあっという間の騒ぎだったわね」
アディは、ポーレットと二人でサロンでお茶を飲んでいた。講義は中断となり、ルースは事後処理に出て行ってしまってまだ戻ってこない。
アディに続けて、ポーレットも、ほう、とため息をつく。
「エレオノーラが王太子妃に名乗りを上げたのは、失恋が理由だった……ということなのでしょうか」
「あのエレオノーラがねえ……」
当てつけにしても、そこで王太子妃を選んでしまうところがやはりエレオノーラだ、とアディは妙なところに感心する。
「でも意外だったわ。エレオノーラはああいう方がお好きだったのね」
文句のつけようのない完璧な美女のエレオノーラの隣りには、物語に出てくるようないかにも王子様といった男性が似合うと、アディは無意識のうちに思っていたのだ。
だが実際に彼女が愛したのは、かなり年上の筋骨隆々とした男性だった。
アディが言うと、ポーレットは不思議そうに首をかしげた。
「意外でしょうか?」
「うーん……驚いたけど、とても優しい目をしていたわ。彼女はきっと、あの方の素敵な部分をたくさんご存じなのでしょうね」
「そうね。だからお慕いして……王太子妃という立場よりも、あの方を望まれたのでしょう」
「そういうのって、どんな気持ちなのかしら」
ぽつりとつぶやいたアディに、ポーレットは微笑んで言った。
「アデライードは、どなたかそう想う方はいらっしゃらなかったの?」
一瞬だけ、アディの胸に一人の影が浮かんだが、アディは首を振ってその影を追い払った。
「……多分、ない、と」
「そうなの」
どこか遠い目をするポーレットに、アディはひっかかるものを感じる。
「もしかして、ポーレットにはそういう人がいたの?」
われに返ったように、ポーレットは机に上にあったカップに手をのばす。その頬がほんのりと赤く色づいている。
「昔の話よ」
「好きな人? どんな人なの?」
あまりそういう話題を人としたことのないアディは、興味津々でポーレットに聞いた。ポーレットは、手にしたカップのお茶を飲まないまま、また机の上に戻す。
「……そうね。子供のような人……わがままで、自分勝手で……ずるくて、でも、優しい人……」
アディは首をひねる。
誰かを想う気持ちがいまいちわからないアディだが、そこに並べられた条件の人間を想像すると、恋をする以前に、あまり人としても惹かれるものはなさそうだ。
「ポーレットはそんな人がいいの?」
不思議そうにアディに言われて、ポーレットはくすりと笑った。
「おかしいわよね。でも、本当に、好きなのよ」
その言葉が過去形ではないということに気づいて、アディは口をつぐんだ。
きっとポーレットにも、なにか複雑な過去があるに違いない。けれど、憂いを帯びた表情の彼女に、それ以上は聞いてはいけない気がした。
「それよりも、このままなら王太子妃にはアデライードが選ばれそうね」
急に話を変えて、ポーレットが言った。
「私? なんで?」
「だって、ルースはアデライードがお気に入りですもの」
「まさか! どちらかというと私だけいじめられているのよ」
「そうかしら」
ポーレットは、はんなりと笑った。
「彼がアデライードを気にかけているのは、見ていてわかるわ。残念だけれど、おそらく殿下には、アデライードが王太子妃としてふさわしいと報告するでしょう」
「私は、ポーレットの方がふさわしいと思うけどなあ」
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