第16話 零れ落ちたキオク

 俺は何となく足早に、メイヌーンの居る金物屋の店先を後にした。

 別に、照れてるわけじゃない。けど、何だか気まずかった。


 メイヌーンは、確かに可愛い。あの悪ガキ四人だったら、こんな風に誘われてきっとスキップする程舞い上がってる。俺だって、ドキリとしなかったわけじゃない。


 けど違う。

 判んねえけど、何か違う。心が、ぐらりと崩れてく。

 どうしてだか、後ろめたい気持ちだけが残ってる。


 何戸惑ってんだ、おかしいぞ。

 別にただ、夕飯に誘われただけじゃんか。やましい事もないし、誰かに遠慮する理由もない。俺だって別に付き合ってるとか居るわけじゃないし、好きな娘だって……。


 何故だか、胸が細い紐で締め付けられたようにぎゅっとなった。



《忘れてる……》


《何を……?》



 何だ、これ? 苦しい。


 罪悪感みたいなものが、しこりになってゴロゴロ転がる。針だらけの表面で、俺を内側からチクチクと突き刺す。



《忘れてる……》


《だから、何を……!?》




「……くそっ!」



 何なんだよ、一体! 

 イライラする。イライラ、イライラ。自分に苛つく。


 俺自身が、わけも判らず俺本人を追い詰めてくる。




《思い出せ!》



 忘れてる、何か、大切なモノを。そんなの、判ってる。とっくに気づいてる!

 朝からずっと気づいてる。思い出せないから苦しいんだろ!


 判ってんだ、そんな事!!


 俺だけじゃない。どうしてだか、皆、忘れてる。


 俺にとって、大切なモノ《ヒト?》


 かけがえのないモノ《ヒト?》



 何を忘れてるかすら、思い出せねえんだよっ!!


 俺は八つ当たりのように、乱暴に台車を押した。タイヤが激しく歩道を突き進む振動で、台車の荷物がガタガタとバウンドする。



《思い出せ!》


《思い出せねえんだよっ!》



 多分それは、俺にとって一番大きな《大切》《意味のある》存在。

 多分俺は、絶対に忘れる筈のないくらい大切な存在を忘れてしまった。



 多分、それは……。



 夢中で考え更けてた俺は、配達先を三軒も大幅に通り過ぎていた。


 ヤバいっ!



 とにかく、今は気を引き締めろ。仕事に集中しろ。悩むのは、家に帰ってからにしろ。

 俺は台車を回転させ、とりあえず通り過ぎた道を後戻った。





        to be continue


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