第6話 ため息ショッピング

 夢のせいで、ぼんやりと目が覚めた。


 あの夢は、何だ……ラオンの記憶、そのもの?


 のそのそと寝床から這い出し、虚ろな気分のまま仕事に行く仕度をしようとした俺は、今日が休みだった事を思い出した。しかも確か、ターサの買い物に付き合う約束していた筈。貰ったバイト代で、新しい服を買うんだとか何とか云ってた。


 今更ながら、めんどくさい。だいたい、そんな気分じゃねえし。約束なんかするんじゃなかった。 

 仮病でも使って断っちまおうかとも思ったけど、とりあえず気を奮い起こして顔を洗う。

 このまま家にこもってたって、一日もんもんとしちまうのは目に見えてる。気をまぎらわす為にも、ターサに付き合おうと腹を決めた。


 ターサの奴、最近急に洒落っ気つけやがって。今日だって、首都ファインで流行りのファッションアイテムを手に入れるんだとかほざいてた。

 あいつも、もう15歳か。ラオンと同い年じゃん。

 背ばっかやたら伸びやがって、俺とほとんど変わらない。けど、まだ辛うじて追い抜かれてねえ。時間の問題とか云っちまったらお仕舞いだけど……。ちくしょう……。




 休日のファインの街は、相変わらず人だらけ。あまり興味の湧かない俺としては、どっか落ち着ける場所に避難したい気分。

 人口密度の高過ぎる通りを進み、お目当てのファッションストリートに到着したターサはあっちこっち目移りさせながらはしゃぎまくる。俺は、うんざりしながら適当にあしらう。


 店に入ったターサは、これはどこどこのブランドだとかこだわりポイントを俺に説明してくる。まるで辺境の星の言語みたいに全く頭に入らず、右耳から左耳に抜けてくだけだった。

 流行りだとか馬鹿らしいと思ってる俺には、関係のない話だったし。


「おっ! これどう? カッコ良くない? 俺似合ってる?」


 ターサがハンガーに飾られてた一着のシャツを体に当てて、俺に尋ねた。


「似合うんじゃねえか?」


 何かどうでもいいから、おうむ返しみたいな相づちを打つ。 


「何だよ、さっきからそればっかじゃん! 少しは真面目に返事してくれよ!」


 ターサの、ブー垂れた抗議。

 こいつ、彼女の服選びに貢献しない彼氏への文句みたいな事云いやがって。


「兄ちゃんもさあ、何か買えばいいじゃん? いつも同じような服ばっかだし」


 どうせ俺は、仕事着も普段着も一緒だ。

 Tシャツとタンクトップ、Gパンしか持ってねえし。楽なんだよ。まあ、とっかえひっかえ着回してるから、確かにボロいけど。


「これなんかさあ、絶対兄ちゃん似合うよ」

「わっ! 何だよその甘ったるい服!」


 ターサが差し出した服に、俺はドン引きする。俺、ぜってえ着ねえよっ!


「何だよ、せっかくこのオシャレマスターな俺が見立ててやったのに! あからさまに嫌そうな顔すんなよ~!」


 こんな恥ずかしい服着ようって奴の神経が判らねえ。


「兄ちゃんさあ、少しはオシャレしてキメたら? せっかく顔いいんだからさ」


 顔が、いい? そんな事、自分で思ってみた事もない。だいたい、あんま鏡も見ない。


「その雑な髪形だって、どうせ自分で切ったんだろ?」

「雑、かな?」


 結構上手く切れてると思うんだけど。ところどころ、長さ違うけど……。


「俺なんて、雑誌に載った人気スタイリストの店予約してカットして貰ってるんだぜ」


 えっ! そんな努力した髪形だったのか! とてもそうは見えねえ。そんな事、さすがに悪くてターサには云えない。


「あ~、いいよなあ! 生まれつきカッコいい奴は、何もしなくたってモテるんだもんなあ」


 わざとイヤミっぽく云って、ターサが大袈裟にため息を吐く。

 何だよ、なんか可愛くねえなあ。




        to be continue


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る