最終話 主人公はこの西宮(まち)を愛してる

 2018年6月現在、主人公の街西宮は大変立派な街に育っていた。阪急西宮北口にある関西最大級のショッピングモール、阪急西宮ガーデンズ、やや失敗した感じは否めないがなんとかがんばろうとしている阪神西宮にあるエビスタ西宮、そして甲子園にあるららぽーと甲子園、あそこにはキッザニアがあるが一体どんなところかは主人公は今尚知らない。


 今日は阪神西宮駅前にある恵比寿水産の立ち飲み屋で大将が握った寿司を食べながら一杯190円のスーパードライを煽ろうか、それとも山手幹線近くにある知る人ぞ知る、隠れたコーヒーの名店、湯気で酸味の効いたコーヒーを片手に執筆をしてもいいかもしれない?

 そういえば、コーヒーと言えば、171号線沿いの関西スーパー前にある個人経営のケーキ屋さん、きっと主人公が生まれる前から営まれているそこではバター焙煎をした珈琲が飲めたな……


 この街を歩むとどこもかしこも陽炎のように思い出とその時々の主人公の顔を出す。たまにゲームセンターでゲームをしてみると、制服を着た学生の男の子達に自分の過去の姿を重ねる。

 月日が経つのは恐ろしく早い、気が付けば主人公はこの町で恋をし続けて人生の半分近くを過ごしたんだろう。

 もしかすると今、すれ違った女性は小学校の頃に主人公が恋をしていたあの子かもしれない。


 少し良い家具を見に行った店先で流暢な英語を話して外国のお客さんを接客しているあの人は中学の頃に好きだったあの娘の面影を感じる。

 高校野球でも見ようか、それともコロア甲子園のあのだだっ広いペットショップで時間でも潰そうかなと行ってみると、そこでトリマーなのか、ペットショップの資格を持っている笑顔が眩しいスタッフは高校の頃に一度付き合って、そしてすぐに自然消滅したあの子なのかな?

 西宮北口へと向かい、ガーデンズに入る。


 スープストック東京に並んでいる彼女、カルディ珈琲でショッピングを楽しむあの中学生くらいの少女と一緒にいる女性はあの人に似てるなとか、この街は本当に主人公を虜にする。

 ガーデンズを出て少し歩くとぱちんこ・パチスロのお店が見える。そういえば、随分あれか打ってないなと主人公は思う。

 個人的に学生時代は学費やら、生活費の為しかたなく金の亡者になってたのかもしれない。だが、人生を楽しみだすと、このギャンブルに時間を割く事がなくなり、足を運ばなくなった。


 久しぶりに入ると、嗚呼、多分彼女なんだろうなという女性が、随分若い男の子を連れて遊戯を楽しんでいた。缶コーヒーを二つ買うと若い男の子に二人分差し上げて主人公は店を出る。

 過去の清算というものは多分できないし、恐らく後悔ってのも先には来やしないんだ。

 あの子とは生まれてはじめてカウンターのお寿司を食べたなと、あれから回転ずしって行った事ないなとか、気が付けば自分がまぁまぁつまらない人間になってしまっていた事に大いにわらけてくる。


 極めつけはなんだったろうか?

 嗚呼そうだ。あの微妙なところにあるチェーン店の珈琲ショップに行った時だったかな? 主人公が恋焦がれ、この物語では全く関わらなかったあの子が、子供の手を引いて、そしてお腹を大きくしてあのスフレケーキを娘と分け合って食べていたのを見た時だろうか?

 彼女の笑顔から見える幸せ、なんと眩しいのだろう?

 さすがは子育てがしやい街西宮である。主人公は今は独り身、一応この話を読み主人公のファンになった女性の為にまだ結婚経験はないと大いに語っておこう!

 主人公は真っ黒なカードを出すとお店の人にこう恰好をつけてみた。



「あちらのお母さんとお子さんの分も払っておくので」

「えっ?」



 この台詞、一生に一度は言いたい台詞だったが、かなりドン引きされたようだ。何かを察した店員さんはとりあえず主人公の気持ちを汲み取ってくれる。

 ありがとう。

 主人公は星乃珈琲か、それとも一番のお気に入りの湯気に行こうか考えて、湯気で今この物語を執筆し、推敲している。

 そう。

 主人公は西ノ宮のノが戻ったら、また新しい恋を始めたいとそう切に思う。

 愛ラブ西ノ宮。

 主人公は君に、西ノ宮に恋をし、西宮でいまもまた恋をしていく。

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西ノ宮のノが戻ったら 御堂はなび @minawa

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