第4話 学校公認アルバイト

 主人公は高校二年生になる。クラスが変われどやる事は変わらない。気の合う仲間とつるんで、遊んで、ゲーセンに行って、そしてバイトをする。

 高校生といえばアルバイトなのだ。

 そりゃまー主人公はいろいろアルバイトをやってきた。ガソリンスタンドからはじまり、工場の冷蔵庫整理、しかしいずれにしても主人公は働くという事がこの当時も今も大嫌いなのである。そもそも主人公の1時間は数百で拘束するとか意味が分からない。


 だがしかし、お金が入用な高校生、裕福な家ではない主人公はバイトをする事でなんとか他の高校生くらいの生活水準を維持していたのである。

 非常に泣ける話だと今さらながら思う。

 バイトって基本的には高校で禁止されている事が多い。かくいう主人公の通っていた学校もアルバイトをするには申請が必要だったが、主人公は当然申請なんざださずにバイトを行っていた。というのも生活をする為なのに何故わざわざ高校の承諾が必要なのかと主人公は思っていたのだろう。



「えぇ、郵便局からアルバイトの募集がきてますので、やりたい人がいたら年末に郵便局のアルバイトをしてください」



 主人公は連日のバイトで眠い目を擦りながら聞き流していたホームルームで自分の耳を疑った。というかついに耳がおかしくなったかとそのレベルで感じていた。



「先生、今なんとおっしゃいましたか?」



 主人公の言葉に先生はまた話を聞いていなかったのかと、あきれた顔をしながら復唱をして頂いた。



「郵便局で年末のアルバイトを募集しているので、行きたい人は行って下さい! 分かったか?」



 ほう、高校がアルバイトを推奨していると……実に興味深いと主人公は思った。主人公はこの頃、43号線沿いのガソリンスタンドと鳴尾浜のスカイラーク工場での仕分けのバイトをしていた。もう一つ、アルバイトを増やすなぞ造作もない事であった。



「おい教師、俺はそのバイトするぞ! どうしたらいい。教えろ! あまり時間を取らせるなよ!」



 そんな感じの事を確か徹夜のテンションで先生様に言ったような気がする。先生は殺意の視線を主人公に向けるとホームルームセットを持って教室を出ていく。

 そして一言。



「あとで職員室にこい」



 おぉ! あの定番の一言を頂いてしまった。恐らく、後にも先にもこの言葉を頂いたのはのはこの時だけだったんじゃないだろうか?

 先生は中々冗談の通じる男で、職員室に来た主人公に郵便局のアルバイトについて詳しく教えてくれた。とても簡単に説明すると年賀状の仕分けか配達である。今まで拘束されたところでしかバイトをしたことがなかったので、配達のバイトは非常に主人公的には興味を持てた。年末の2週間程年賀状の仕分けをしてそれを配達するというそんな感じのアルバイト。とりあえず面接に行くと、どちらがしたいかを聞かれるわけだ。



「はぁ、俺は配達のバイトかな?」

「それは何故ですか?」

「いや、配達がしたいから?」



 主人公のこのそこに山があるから山登りをするみたいな面接の受け答えの結果は非常に面白い事になる。

 主人公が連れていかれたところは、大量の年賀状が積まれている広い空間。そしてまわり見ると女の子ばかりなのである。

 主人公は配達のアルバイトを余裕で落選し、仕分けの方をする事になった。

 西宮郵便局でのアルバイトなのだが、ぶっちゃけ物申したい! 落ちた時点で仕分けのバイトにシフトするのはどうかと思う。

 この西宮郵便局でのアルバイトは随分お世話になる事になるのだが……

 この高校二年生の物語、主人公がただただバイトの愚痴をこぼすだけだとお思いだろうか? 否、主人公はここでも恋をする。

 この仕訳バイトであるが、特定の地区でまとめられた年賀状を番地毎に仕分けをしていくというまぁまぁ病んだ人向けの作業を何時間も繰り返される事になる。


(あっ、死にたくなってきた)


 落ち着きのない主人公は余裕で死を選ぼうとしていたんだけど、主人公の隣で仕分けをしている女性、なんだろう? 浜崎あゆみとかあっち系を意識したメイクの宮崎さん(仮)、かっこ仮とか言ってるけどもしかしたら本当に宮崎さんだったかもしれない。

 この宮崎さん、所謂ギャルなのだ。

 主人公はこの人、なんか恰好えっろいなーとかくらいで思っていて自分にまさか話しかけてくるとは思わなかった。



「のど飴食べる?」

「えっ? 食べる」



 主人公はこの時にギャルと呼ばれる人たちが非常に、コミュニケーション能力が高く、かつ優しくて面倒見がいい事を知る。

 まぁ普通に考えれば流行とお洒落が好きな女性なわけで、何故か主人公はこのギャルをヤンキー的なイメージで見ていたんだとひどく恥じた事を覚えている。

 宮崎さんは女子短大の一年生、主人公よりも二歳年上なのである。全然問題ない年の差なのである。

 主人公も宮崎さんもシフトで動いているのでお互いが休みの時はどうしているのか知らなかったが、同じ出勤の日はいつも一緒にお昼ご飯を食べていた。

 この頃にはバスの停留所があったあたりに華宮という中華料理レストランがあった、そこが高いのなんのって、主人公と宮崎さんはいつかそこで中華を食べたいねとよく話をしていた。


 もっぱら主人公と宮崎さんは2号線沿いのガストで一番安いメニューを食べていた。

 このガストであるが、主人公はすかいらーくの方が好きだった。ガストは大衆用ファミレスで、すかいらーくはちょっとお高めのファミレスみたいな感じである。

 話は脱線したが、ガストで宮崎さんと主人公はどんな配置で食事をしていたでしょうか?

 正直、主人公はドキドキしまくりの、真横に宮崎さん座るの、そして主人公のプレートをつついてきたり、自分のプレートのおかずを食べさせてくれたり、ぶっちゃけ恋人じゃん! 俺たち付き合ってるの?

 みたいな感じの一時間を過ごす事になる。



「宮崎さんって短大卒業したらどうするんです?」

「私? 保母さんになりたいなーって思ってるよ。君は? 何か夢とかあったりするのかな? なんかすごい大物になりそうだよね。君」



 この宮崎さんの想像は大きく外れる。主人公はしがないサラリーマンになり、一応物書きになる。



「笑うなよ?」

「笑わないよぉ!」



 主人公は多分、今まで自分の夢を語った事は無かった。この宮崎さんには言ってもいいかなと自分の夢を語ったのである。



「俺、このミステリーが凄いの作品を読んで感動して、俺も本を書く人になりたいなって思ってたりすんだ」



 まぁまぁ恥ずかしい。

 小説家になりたいと言う主人公に宮崎さんは100点の返しをする。それはギャルがいかに空気を読める生き物であるかという証明にも等しかった。



「いいじゃん! 君、見かけによらず繊細だしなれるんじゃない?」



 まぁ慣れた。

 それだけは宮崎さんの読み通りだった。でもね。主人公はまだ夢を追いかけている途中だから、半分当たっているという事にしようかな?

 年上だけど、姉というよりは年が近い宮崎さんの事が主人公はどんどん好きになっていく。宮崎さんが保母さんになって、主人公が小説家で二足の草鞋も悪くないかなってこの頃に主人公の小説第一作を書き始める事になるのはまた別の話である。

 あるバイトの日、作業も一段落ついたので、主人公は宮崎さんに黙っていた事を言う。



「俺さ、今バイクの免許取りに行ってる」

「えぇ! 凄いじゃん! バイク買ったら乗せてよ!」

「うん、その為に取りに行ってる」

「何いってんのよぉ! ちょっと嬉しいじゃん」



 この時の彼女の発言が可愛かったのなんのってすごかった。それから主人公はバイク雑誌を見ながらどれを買おうか悩む日々が始まる。

 この頃にはまだビックスクーターというものの知名度は低かったので、二人乗りに適したバイクとして主人公はドラッグスターというヤマハの400ccのバイクを即金で購入した。

 当然、今までのバイト代は全部吹っ飛んだのだが……

 あとは免許を取るだけで宮崎さんとタンデムデートの日々がやってくるとそう思っていた。

 忘れもしない年が明けた1月7日、郵便局のバイトも終盤のある時、宮崎さんは早めに帰ると言って早退していく。


 そんな彼女を見送り、主人公は教習所へと向かう、まだ全然残っている実習と講習、されど頭の中は宮崎さんの事ばかりだったので苦でも無かった。

 自転車で甲子園自動車教習所まで行くのだが、これ甲子園とか言って詐欺である。甲子園よりずっと先の鳴尾浜、倉庫バイトのあたりまで行く事になるのだ。


 キコキコとちゃりを漕いで教習所に通い、夜遅くに阪神西宮駅のあたりまで戻ってきたその時、主人公は普段より化粧が濃い宮崎さんを見つける。

 すげぇー年上の男……というかオッサンと腕を組んで歩いている。これはお父さん好きの娘とお父さん……というわけではなさそうだった。

 そうか、これが大人の世界か……

 大人の階段上る君はまだシンデレラさ……H20の歌詞が頭の中で反復されながら主人公は家につき、そのまま郵便局のバイトを辞めた。

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