第3話 だいたい中学生から後輩という存在が出来る
主人公は中学二年生となる。学年があがるという事は小学校というほとんど別学年と関わらない閉鎖空間の中では特に感じる事はなかったのだが中学生になると部活動に入っている連中は先輩と後輩が存在する事になる。
どうしても別学年と関わる機会が多くなるのだ。
そう、後輩という存在が入学してくるのである。主人公は自慢ではないが、そこそこ運動神経はいい方で、背番号をもらい先輩に交じって試合に出る事も多々あった。主人公的にはあまり興味はなかったが後輩にはバスケットいボール部は人気があったのか二十人近い部員が入ってきた。
一つ下はイケてる男子が多かったのである。それ故女子後輩も多く入ってきた。それでも尚主人公はバレー部女子の乳の揺れ具合を楽しんでいたのではあるが……
そんなある時事件が起きた。
「布川、お前! シカトしてんじゃねぇー!」
後輩にきつくあたる同級生、大賀君。彼は主人公の事をわりと恐れており、主人公に文句を言う事が出来なかったという何かもあったのだろう。そしてこの布川君、彼はイケメン揃いの後輩の中、一人だけ痛い系男子であった。さらにすぐ拗ねるという中々地雷的なところが大賀君の怒りを買ったのだろう。
ちなみに主人公達の上級生、所謂先輩連中は自分達で考える事ができない能無ししかいなかった為、問題を解決させる術を持ってはいない。
大賀君もまぁまぁクソ野郎だった為、同級生女子に好かれていない布川君をイジメる事は何かしら後輩女子へのアピールのつもりだったのかもしれない。
「もうヤメとけや」
ここで主人公の登場である。
ぶっちゃけ、主人公は喧嘩であるとかイジメであるとかに正義感で止めにはいるような真似は中学生の頃には考えていなかった。というのも問題が起きたらなんでも全体問題にする教師のやり方が面倒だった為、問題が起きた時はこうして止めに入るようにしていたのだ。
本当にこれに関しては主人公はなんら点数を稼ぐ気はなかったし、後輩なんていう存在も興味は無かった。上手な奴が入ってきてくれたら勝ちやすくなるな程度の事を考えていた。
そしてそれはしばらく経った頃だった。主人公は後輩達に呼び出される事になる。なんだろうと彼らの元に行くと、各小学校の連中とも仲良くなってきた後輩男女達が懇親会をするという事で、主人公に来てほしいというお願いであった。
その日は塾があるわけでもなく、まぁいいかと現在ではオートバックスと自遊空間のある敷地内に当時は聳え立っていた980円焼肉。
『将軍』
へと向かった。
ぶっちゃけ今にして思うと何でこんなにこの店の焼肉はここまで異常に安かったんだとかもはや存在しない店の事は分からないが、デザート等も含めて料金内なのである。そこに来た主人公と後輩の男女十人くらいで広い席についたのである。
「先輩、肉取ってきますね!」
「あっ、俺も取りにいくよ」
「すみませんっす、じゃあ! ドリンクとかお願いします」
正直、すげー楽しかった。主人公はどちらかというと上下関係を作るという事は好きではなかった、友達のように付き合う事を欲していたのかもしれない。なので特に上から何かを言うわけでもなく、かと言って叱る時は後輩も同級生も叱っていたような気がする。
それが謎の徳を生み、主人公は話の分かるとても大人な先輩に後輩たちの中で勝手に進化していた。
「先輩ドリンクつぎます!」
「ありがと」
妙に主人公にご奉仕をしてくれる後輩女子、涼しい顔をしていた主人公だったが、何? 何何? もしかしてこの子俺に惚れちゃった系かい?
と当然の妄想をしていた。そんな中、あまり箸の進まない後輩が目に入る。
「布川君、あんま食べてへんやん。どないしたん?」
主人公の問いかけに布川君は箸で焼肉のタレをつつきながら語りだした。当然大賀君との確執についてであった。
「大賀先輩って俺の事嫌いですよね?」
「うん、多分そうやな」
誰が見ても当然の状態の中、そんな事ないよとは主人公も言える程馬鹿ではなかった。それに対して主人公が言える事は一つ。
「大賀君が理不尽な事で布川君に絡んだら俺が止めたるからあんまり心配せんでええで」
この一言で主人公コールがしばらく鳴り響いたのである。主人公は「やめぇや」とか照れたような表情を見せていたのだろうが、心の中でいいぞもっとやれと言っていた事をここで告白しようと思う。焼肉をたらふく食べてその日は解散になった事を覚えている。
バスケットボールという部活で練習試合に行く時、たいがい後輩にボールの入ったバックを持たせるのが当時のこの部活のいつもの事であった。
「なんで、毎回毎回僕なんですか?」
布川君が大賀君にボールの入ったバックを渡されてキレる。ぶっちゃけそのくらいは黙って受け取っておけばいいものを何故か彼は大賀君と全面戦争をする気のようだった。これはきっと主人公が助けてくれるという後ろ盾によるものだろう。
「あぁ? お前今なんて言った? おい!」
マジで誰か止めろよといつも思っていたが今思えば中学生なんてものはガキでしかなく判断能力が著しく低い生き物なのだ。
「おい、俺が持って行くからそれでええやろ?」
主人公が割って入ると大賀君は掌を返したように言う。
「いや、お前が持って行く必要はないよ! こいつがなんかゴネとるからさ!」
「うん、持って行きたくないんやろ? 別にええよ。俺の家駅から近いし、持って行くからその辺おいておいて」
ここで主人公が持ってきます。閉店ガラガラおめでとうで終わればそれでよかったものを、布川君は何を思ったのか……
「持って行きます! 僕が持って行きます!」
ときっしょい事を言ってしまうので大賀君の目の色が段々と変わっていく。大賀君はプライド的なものが極めて高い。自分が言っても言う事を聞かなかったのに、主人公が入ると自分が持って行くというその態度に激しい怒りを覚えたのだろう。
「おい、布川。だったら最初からそう言えよ! お前調子のってるとぶっ飛ばすぞ?」
大賀君は学年内では正直、布川君的な位置づけのキャラクターであった。不良にヘコヘコとごまをすり、自分を馬鹿にしない程度の友人と共にいる。そんな自分と布川君を照らし合わせてみていたのかもしれないと今覚えば感じるところもある。
それに気づけないのは当時の主人公は中学生でしかないという事だからだろう。
その日の練習が終わり、布川君はボールが沢山入る巨大な鞄を持って下校していく。三年生が部室を使うので、主人公達二年生は体育館の舞台側で着替えていた。そこで主人公は大賀君に話をした。
「大賀君、もう少し布川君に優しくしてやれんか? 殆どイジメにしか見えんで? いや、ほんま見ててかなり気分のいいもんじゃない」
イジメをする人間とイジメられる人間という状況に関して主人公は答えを持ち合わせてはいない。何故なら、主人公は誰もイジメた事はないし、イジメられた事もない。学園カーストの上位にいたわけではないが、精神的にも肉体的にも自分の身を守る術を持っていたし、他人にちょっかいをかける程暇でもなかった。
その主人公の言葉を聞いてからか、大賀君はしばらくの間、妙に布川君を褒めるという謎の行動に出て、布川君もまた気分をよくし、調子に乗るという具合であった。
まぁこれはこれでいいのかと主人公は思っていると一人の女子がバスケットボール部の練習終わりに話しかけてきた。
「先輩って阪神西宮のあたりですよね? 私も同じ方向なので一緒に帰りませんか?」
中学生になって女子から男子に一緒に帰ろうという事なんてありえるだろうか? いや、あるまい。
「うん、いいよ」
さて名前も知らない後輩女子だが、この子は980円焼肉食べ放題『将軍』にてやたら主人公にご奉仕をしてくれた子である。小さい子で名前はもう覚えていない。その為、良子ちゃん(仮)としておこう。
帰り道良子ちゃんは、凄く楽しそうにバスケットボールの話をする。そして時折はにかんだように可愛く笑うのだ。
(うむ、可愛い子だ。告られたら速攻でOKしよう)
そう主人公は心に誓う。
良子ちゃんは立ち止まると主人公にこう言った。
「先輩が布川の事を守ったりするの、すっごいカッコいいと思いました。私、凄い感動しちゃって!」
キタキタキタキタ! 先輩の事好きになっちゃいました。と一言言ってくれればそれでこの物語は終わる。
当然終わらないという事はそういう事なのである。
「あの、私も二年生の女子先輩に凄いキツく言われてまして、先輩に何か言ってもらえたらなって思って今日勇気を出して先輩に告白しました」
嗚呼、うん。その告白いらないかなとか思ったけど、主人公は少し難しそうな顔を良子にして見せた。
「うん、ちょっと話してみるよ」
「ありがとございます! あっ、私こっちなので」
そう言って良子は自分の家に行く、全然主人公の家と方向が違うのである。とりあえず口約束はいえ一応同期女子にあんまり後輩をキツく指導するなとは言ってみたが、良子はそれから数か月後にバスケ部を自主退部していった。
まぁ、やめろやめろ! と当時の主人公は思ったのは間違いないのだが……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます