第5話 甲子園教習所は甲子園というには遠い

 主人公は高校二年生の頃、バイクの教習所に通っていた。それは甲子園自動車教習所という少々大丈夫かと言える教習所であった。

 人生で主人公は自動二輪、大型二輪、そして自動車のMTと三回この教習所に通う事になる。 この二年生の頃は中型二輪であった。

 さて、主人公は郵便局のアルバイトで惚れてしまった宮崎さんとの恋が冷めて、もう二輪免許を取っても意味ないんじゃないかと思っていたが、主人公は途中で投げ出すような根性無しではなかった事は中学の部活やらのおかげだったのかもしれない。

 この甲子園教習所、中型免許の教習者はホンダのスーパーフォア400というバイクでこれが乗りやすいのなんのってこれを買おうかと心から思ったくらいである。

 ちなみに主人公は基本的には優しく接してくれたら借りてきた猫みたいな感じなのだが、意味不明な事でやたら切れまくるクソ共感がいたんだ。



「お前、免許取るのやめろ」

「はぁ、金払ってますが?」

「ブレーキのタイミングが遅いとなんど言とるんじゃ?」



 こいつは主人公、三回目くらいの教習まで我慢したんだ。高校生の十七歳が三回まで我慢したんだ。だけど偉そうで主人公はもう許せなかった。

 ちょっとこの教官が仕事を終えるまで待ってから少しお話をさせて頂いた、するとなんという事でしょう!

 この共感の教習になると全て一番いい評価がつけられるのでした! これは主人公魔法というリミット技だったんだけど、何にも悪い事はしていないよ!

 ほんとだよ!

 こんな意地悪な教官と主人公のBL話が進むわけはない。主人公はここで同級生の女の子と出会う事になる。


 バイクも車も実技と座学の教習があるんだけど、座学は日に二授業まで、実技はキャンセル待ちを使って日に三回まで受ける事ができる。

 さっさと卒業検定へと向かおうと主人公は無我の境地で授業を受けていた。そんな中、主人公が一次試験をクリアして二次に入ったころだろうか?

 眼鏡をかけた中学生くらいの女の子がプロテクターをつけてバイクの実技を受ける準備を。



「結構進んだの?」



 主人公は何気なく聞いてみる。



「……は、はひっ!」



 共同不審な女だなオイとか主人公は最初思っていた。まぁダサいプロテクターとダサいヘルメットを主人公も彼女も被っての最高に色気のない出会いであった。



「きょ、きょ、きょうがはじめてれす!」



 今日が彼女は初めてバイク教習だったらしい。それに主人公は指を額につけてキザなポーズをとるとグッドラックのかわりに



「一発クリアでジュース奢ってやるよ!」



 そう言って主人公は第二次の教習を進めた。ぶっちゃけこのレベルになると教官よりもバイクの扱いは美味くなる。テコの原理でバイクを起こすなんてくだらない事はしなくなる。エンジンをかけてアクセルを回しながらバン! と一発でバイクを起こしてしまう技を覚える。

 これには共感連中にやたらキレられるが、実際主人公はアメリカンバイクという大きなバイクを中型、大型と乗り継ぐ事になるんだけど、この起こし方は本当に重宝した。なんせ何百キロあんねんというバイクに乗る事になるわけで、正攻法の起こし方なんてやってられないのだよ。

 主人公は教習を余裕でクリアして待合室でキン肉マンだかの漫画を読みながら待っていると、メガネっ子がふらふらとやってくる。



「お、お疲れ様ですぅ」

「お疲れ! どうだった?」



 バイク乗りの凄いところは他人同士でもやたら仲良い事である。教習前にプロテクターをつける場所でみんな部活みたいに楽しんで「おつかれさまです! お願いします」と何故か言い合っていた。

 今ははどうか分からないけど、バイク乗りに悪い奴はいないという言葉が主人公達の中では有名な言葉であった。



「うまく、いきましたよぅ!」



 彼女は主人公に一回目の教習がクリアできた事をハンコが推されている事で見せてくれる。それで主人公は彼女に缶ジュースのカルピスを投げた。



「わわっ! ありがとう」



 いちいち演義っぽい女の子だなと思ったが、主人公はなんともコミカルで可愛いなと思っていた。美味しそうにカルピスを飲む彼女に主人公は自己紹介をするとメガネっ子も自己紹介をしてくれた。



「尾崎いちかです」



 いちかちゃん、彼女はなんと主人公と同い年の十七歳だった。バイクの免許という物とは無縁のように見える彼女。



「いちかちゃんは何のバイク乗りたいの?」

「私ですか? そうですねバルカンです!」

「あー、川崎の? エリミネーターとかではなく?」



 エリミネーターは400と250CCの排気量があり、女の子が採りまわす250CC、あるいはこのエリミネーターは少し小さめなのでビラーゴと並び女の子バイク。みたいなイメージが主人公の中ではあった。



「音がカッコいいじゃないですか!」



 たしかにハーレー程ではないにしても、中々いい音をバルカンは出す。まぁ主人公はヤマハドラッグスター一筋だったので、バルカンに乗る事はなかったが、いちかちゃんはバルカンに跨る事を夢見た女の子であった。



「俺、ドラッグスター買ったから乗せてあげよっか?」



 いちかちゃんはめちゃくちゃ目を輝かせる。アメリカンバイクが相当好きだったんだろう。いちかちゃんは嬉しそうに主人公に笑いかけてくれる。



「絶対のせてくださいよぅ!」



 あっ、いちかちゃん可愛いわと主人公は秒速で惚れる。いちかちゃんはうしろをポニーテル的な感じなのか結んでて、横も髪が長かったんだけど、女の子の髪型なんぞ主人公が知るわけもなく、なんとも似合った髪型だったと思う。

 その全てが主人公は好きだった。一緒に同じ教習を受けれれば楽しかったんだろうけど、主人公と彼女とでは一か月くらい期間が違ったっぽいのでそれはかなわない夢であった。主人公は彼女よりも先に卒業をして明石の運転免許証センターで免許を取得する。

 それから主人公は念願の購入したバイクにまたがり、卒業したハズの甲子園自動車教習所へと向かう。

 何故か?


 いちかちゃんの送迎だったり、そのままデートだったり、いちかちゃんにデパートとかの屋上でバイクの運転をさせてあげたりとちょっとしたデートを繰り返していた。バイクのグッジョブなところは女の子が後ろから抱きしめるようにタンデムしてくれる事だ。

 まぁねあの……

 双子の甲山というか……おっぱいがそのね! 主人公の絶壁に押し付けられてそれは天国か、はたまた極楽かの感触をね……まぁこのお話は18禁が投稿できるサイトでまたお話をしようと思う。

 この頃はまだ甲子園のららぽーとはなかったので主人公といちかちゃんは甲子園のダイエー所謂プランタンに遊びに行く事になる。


 そう、小学校から変わらずここにはドムドムバーガーがあったりする。そんな物を食べながらいちかちゃんとだべって時間を潰すのが主人公の至福の時間だった。

 そして、主人公はいちかちゃんと大阪梅田、天王寺あたりで彼女の服を見に行く、いろいろ主人公がコーデを見て、アメリカンカジュアル、当時でもまだそこまで流行ってはいなかったアメカジュスタイルを見繕ってあげると、なんとも地味なメガネっ子が、学園のマドンナという死語くらいには進化を遂げてくれていた。

 一応、主人公の時代を擁護する為に言いますが、マドンナなんて単語は主人公は生まれてこの方使った事はないからね! そんな昭和な感じではないのでそこのところ偏見しないでほしいよ!



「いちかちゃん、めっちゃ可愛いで!」

「えへ? ほんとですかぁ?」



 そう、この時まではいちかちゃんは主人公の理想の女の子だったかもしれない。磨けば光る女の子って本当に沢山いると思うんだ。

 この磨けば光るってなんだか上からっぽくで失礼なんだけど、本当に女の子はみんな自信をもってほしい。もうね、今の年になった主人公からすると年下の女の子はみんな可愛いわ。

 少しの努力と一歩を踏み出すかで多分、世界が変わると思う。これはね人生で恋をし続けて失恋を繰り返している主人公だから言える。男の告白の成功率は低いけど、女の子の告白の成功率はおそらく男の三倍以上の成功率を誇ると思う。

 まぁね。


 主人公はドラッグスター400でいつも通り同じ臨港線を走る主人公、なんどか甲子園教習所に行ってみるもののいちかちゃんの姿は見えない。それはその日教習がなかったのだと主人公はそう思って一週間、彼女に会えず、連絡も取れない時に少し胸騒ぎを覚えた。

 もしかして、彼女と音信不通になったのではないかと……まさかそんな事はないよねと主人公は思っていたのだ。

 恐る恐る甲子園自動車教習所のカウンターで、いちかちゃんの事を聞くと、個人情報に関しては教えられないが、主人公が彼女と仲が良かった事をしっていたのか、ただ、教習所を辞めているという事だけは教えてくれた。

 いちかちゃん、彼女とは今なお出会う事はない……主人公は涙で枕を濡らした当時と、今はこう思う。どこかで幸せでいてくれればうれしいと……

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