第7話 修学旅行 前編~友達のお姉さん~
主人公が中学三年生の頃にはまだダイエーは健在であった。今やソフトバンクホークスと呼ばれているあの球団も、我らがー我らがーダイエーホークス! とゴロの良い歌を歌っていたものである。
「優君、凄い眺めだね!」
「ほんまやね! 凄い眺めだ」
主人公と優君という少年、二人は今何処にいるのか?
二人は九州は福岡のシーホークスホテルにいるのである。
何故、主人公達がそんなところにいるかというと、主人公達中学三年生最後のイベントである修学旅行に来ているのである。
小学校の頃は兵庫県は西宮市からほぼ隣の県である奈良に行った主人公としては九州は福岡、地方が変わる修学旅行はまさに異界への旅立ちに等しかった。
ちなみにこの高級ホテルに入るのは二日目である。
それでは中学三年生編主人公最後の恋。地元だと言っているのに飛び出していく感じがアレである。
★
一日目は当然我が中学から大きな観光バスに乗っていくのだが、主人公達の中学校は阪急沿線にある。元々フォルクスがあった場所はサイゼリアに代わりそして客が入らずに潰れる。
信じれるだろうか? あのサイゼリアが潰れたのである。今ではミラノ風ドリアは290円だが、当時オープン記念として145円で販売されていた時があり、どれだけ通ったか主人公は分からない。
我が中学の周辺は色々有名な場所があるのだが、この中学の修学旅行前に関しては覚えている事がある。オヤツなんかを買いに行き準備をしよかという時、主人公はいつもと違う道を使って下校していた。
西宮の有名なケーキ屋を二つ上げるとしたら、あの芦屋・そして日本全国でも焼き菓子が有名なアンリシャルパンティエ。とエーデルワイス創設者の弟子であるツマガリさんがやはり上げられるのではないだろうか?
主人公は人生ではじめてツマガリでケーキを食べる事にこの日なる。
甲陽園駅周辺をうろつきながら帰っていると、一件のケーキ屋、ツマガリである。主人公的にケーキ屋さんのケーキなんて物が食べられるのは誕生日かクリスマスかというお話であった。本当にこの頃は偶然だったんだろう。
「あら、からさんのお姉さん、こんにちは」
ガキ大将と言うと、失礼だがかなり男前でみんなのリーダーみたいな唐瀬君という友人がいた。そのお姉さんがそこで働いていたのである。そのお姉さんも美人さんなんだが……
「翔太の友達の! 何してるの? 明日修学旅行じゃないの?」
からさんのお姉さんは丁度バイトが終わった所だったようで、主人公と軽く立ち話。友達のお姉さんというのは何だかエロいのはなんでなんだろうなと主人公はいまだに分からない謎を抱えている事を告白しよう。
「あっ、そうだ! ケーキ買ったから一緒に食べよ!」
マジか? ケーキって記念日以外に食っていいものなの? と主人公は思う。なんて貧乏な奴だとお思いかもしれないが、それが当時は普通だったんだ……いや、主人王の家は少し貧しかったんだろう。
この甲陽園という地域、なんともセレブ的で意味不明にテーブルのある場所とかがあった。木造の謎テーブル。そこの椅子に腰かけるとからさんのお姉さんは「どれがいい?」なんて笑顔で主人公にケーキを見せてくれる。
ぶっちゃけね。
主人公ケーキとか超好きで、ショートケーキを選びたかったんだけれども、なんだかこっぱずかしくてチーズケーキを選んだ。
からさんのお姉さんは学校の事とかいろいろ話してくれるが、主人公は年上の美人との会話で全く話が入ってこない中、このツマガリのチーズケーキはドギマギしている主人公でも味が脳みそに届いた。
「……うまっ!」
ケーキという高級菓子を食べる事はあまりにも少なかった主人公にとってケーキなんて食い物の味が分かるとは思えないが、つい最近ツマガリのケーキを買って食ってみたが、やはりとんでもない美味さであった。
「私のも一つ食べてみる? はい!」
これは、殺し文句である。美人が自分が食べていたフォークで一口くれるなんていう天国。当然主人公は惚れてしまった。
「あの……お礼に修学旅行で何かお土産買ってきます」
年上の女性を喜ばせる術なんて主人公にはなかったが、この修学旅行と絡んでいるという事はなんという奇跡だろうと思った。
当然からさんのお姉さんは可愛らしく笑う。
「えぇっ、ほんとに? 嬉しいな」
とか嬉しがりかたも超絶可愛かったのである。主人公はそれで舞い上がり、適当に美味い棒とか買って修学旅行に赴く事になる。
「なんかめっちゃ嬉しそうやん! そないに修学旅行楽しみなんか? いや、まぁテンション上がるけどもさ」
バスの席も隣の優君は普段そんなに笑わない主人公の顔が緩みまくっていたのでさぞかし気持ち悪かっただろう。
「いや、優君。俺はよ西宮戻りたいわぁ!」
「何言ってんねん! じゃあ降りろや」
こんな掛け合いをしたのを覚えている。ニコニコしながら優君は「気持ち悪いのぉ」と言うが二人して楽しく外を見てお菓子を食べ、我々の世界である西宮を飛び越えた。
僅か一時間程だったんじゃないだろうか? 主人公は死にかけていた。ご存知、主人公は乗り物酔いが酷い。
「大丈夫か? おい、マジか? 弁当とか無理だろ?」
そう、バスの中で弁当を喰えと拷問みたいな事をこの中学校の先生たちは言いやがるんですよ。小学校の教師は一年から六年まで頭のおかしい先生しかいなかったが、中学からは半分くらいはマシな先生で構築されていた事は大変助かった。
「大丈夫じゃないな。先生の隣に座って、水をゆっくり飲め。飲めそうなら酔い止めも飲んどき」
めっちゃ厳しい先生が主人公の担任だったが、これが面白い事に自分のクラスの生徒には超甘くて優しい先生であった。
主人公は余裕で昼食抜きで佐賀県の干潟へとやってきた。修学旅行一日目の大きな行事は干潟での泥遊びである。
まさか中学生になって泥遊びをする事になろうとは思いもしなかった。なんてガキ臭い事をしないといけねーんだよとか思った主人公は五分でその考えを改める事になる。
「おぉーいえぇー」
女子がみんな水着なわけである。主人公ガン見、圧倒的ガン見からの友人達に泥に放り込まれる。
「いてー!」
びっくりするくらい泥を投げつけられ、泥の中で海水浴的な事をし、泥に足を取られて身動きが取れなくなる。クラスメイトは何気に乗り物酔いで気分が悪かった主人公を気遣ってくれていたのだろうか? 多分違うな……
綱引きしたり、競争したり、同学年女子の乳の揺れ具合を確認したり、まぁまぁ楽しんでから泥を落とすと主人公達は武雄温泉の旅館へと向かう。
西宮の一番近い温泉は、あの日本一古いと言われている有馬温泉である。この日本一古いというと他の地域がちょっと待てぇい! と出てくるのでこれ以上は言及しない事にする。九州地獄めぐりというだけあり、温泉は中々いいお湯である事を主人公が保証しようと思う。
全然地元じゃねー話だが、主人公は元々九州の人間なのでまぁ許してほしい。
武雄温泉の旅館につき、そこでその日はじめての食事……そう夕食である。主人公は泣きながら米を胃にとかしまくったのを覚えている。
腹が減りすぎていたら何を食べても美味しいというが、この旅館の飯は本当に何を喰っても美味かった。中学生に出すのはもったいない飯である。動けなくなるまで飯を食った主人公だが、この旅館のメインディッシュは温泉である。
主人公、女子くらい温泉が好き。風呂の時間はクラスで交代だったので、その間お土産を見たり公衆電話で家に電話をしたりとそんな感じの時間を過ごす。
ここで思い出が一つ。山東君という男子がいた。彼は急性白血病を患っていたのだが、なんと治療を頑張り治したわけで、彼と公衆電話で少し話して「元気になってよかったね?」「うん、ありがとう」
みたいなちょっといい感じのやりとりがあったんだ。
がしかし、主人公はそんないい話を語りたいわけではない。公衆電話を使いたかったのだ。相手はからさんのお姉さん。
まぁ、主人公中学生時代は本当の馬鹿だったので、彼女の声を聞きたいとかまぁまぁ気持ち悪い主人公はギザ十の十円を公衆電話に入れ、からさんのお姉さんの携帯電話へと電話をかける。
この時、どんな会話をしたのか主人公は覚えていない。いやいや、恥ずかしいから言いたくないんだろう? とか言われそうですが、本当に覚えていなかった。今思い出す事もできないので、多分こう予想する。
「マジでどうしたん? 頭打ったん? めっちゃきしょい顔してんで自分」
と武雄温泉の素晴らしい温泉に浸かりながらクラスメイト達にそう言われるあたり、相当主人公的に嬉しい事があったんだろう。
多分、好きと言われたんだ。
それは恋愛感情でない方のね。でも中学生の馬鹿だった主人公はそれを真に受けたわけだ。 修学旅行中半に続く!
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