第5話 小学校の修学旅行でも主人公は恋をする
主人公も小学校の最高学年になり、まぁまぁ落ち着きが出てきたころだった。この頃になると恋愛そっちのけでミニバスケットボールにハマりまくっていたのを覚えている。教師が部活動というよりはゲーム練習を多くしてくれたので飽きが来なかった。毎朝早起きして朝練に行くのも苦ではなかった。
しかし……この事が中学生になって苦行を強いる事になるとはまだこの時の主人公は思いもしなかった。
「へいパス!」
主人公は何故か外人みたいな事を言う友人にバスケットボールを投げる。学年の半分近くはミニバスに入っていたかもしれない。
NBAとスラムダンクが流行りまくっていたのでバスケットボールが生徒たちの心を掴むのは十分だった。ちなみに誰に教わるわけでもなく主人公の得意技はベビーフックシュートだった。今真剣に思えば、一番使いやすいからだの使い方をしていたのかもしれない。
「AチームとBチームに分かれてゲームをします」
このAチームとBチーム、正直酷い話である。Aチームは一軍、Bチームは二軍役割なのだ。自慢ではないが、主人公は基本的に運動性能が高く器用だったのでAチームに属してはいたが、この強者と弱者の試合が嫌いすぎてよくBチームに入ってゲームに参加をしていた。
さらに愚痴をこぼすと、学校の先生というのは学校で態度が悪い奴らを何故か養護する傾向にある。あれは非常に他生徒のストレスになるので止めて頂きたい。まともに真面目に生きている方が馬鹿を見ると思ってしまうのだ。家庭環境に問題があるのか、地域に問題があるのか分からないが風紀を乱す奴は隔離でもして一般生徒の目に触れないようにすべきである。
何が言いたいかというと、Aチームに対して上手くもない素行不良が何人もいたのだ。そういう奴らに限って体育会系のノリを出すのでかなりイラっとしていた。
小学六年生という時代であるが、今の子供は当然知らないが、結構ややこしい時期となっている。中受をする者達は外で遊び五月蠅い生徒達を汚い者でも見るかのように見て、それでいて教師の知らぬところで大人になっていく時代であった。
このカクヨムで使うとバンするようなするような言葉も大概小学校六年の頃に知ったんじゃないかと思う。
この六年生の頃というと、巷で古本屋が多く台頭してきたのだ。今でこそブックオフと古本市場程度しか残ってはいないが、高架下近くにあり、今はドミノピザになってしまったメーカーズブックス。当時のミドリ電化、現在のエディオン西宮店すぐ横にあるオートバックスがあるところもこの頃は倉庫一つつかった古本問屋であった。
ここらで主人公はエロ同人誌について知る事になるのだが……それは何処か語る事があれば語りたいと思う。
今はやれ、無料漫画サイトだのなんだの言われていたが、もちろんインターネットを引いている家もパソコンを持っている家も少なく、漫画を買おうと思ったら本屋か古本屋だった。アマゾンなんて知らない!
今は100円で漫画が買えたりするが、当時はだいたい定価の60%くらいだったんじゃないだろうか、少ない小遣いを手に新刊漫画が売られていないか探す自転車の旅によく出かけたものだった。この頃の主人公はあかほりさと先生のセイバーマリオネットという今でいうラノベにドはまりしていたので、これらを何冊か買って修学旅行へ持っていこうと思っていたのだ。
そう修学旅行、主人公たちは兵庫県は西宮に住んでいるのだが、果たしてどこに旅行に行ったでしょう?
一東京!
二北海道!
三沖縄!
四奈良……
はい、奈良です。
バカかと! 電車で一時間以内でいける奈良にわざわざ泊りがけでいくとか狂気以外何も感じなかった。いやいや、修学旅行は確かに勉強の為ともいうけれどいくらなんでもここはないだろうと主人公は当時で既に思っていた。
一つご立腹の主人公を宥める事ができたのはオヤツ代が500円でお小遣いが3000円あった事だろう。
家族へのお土産を考えても当時3000円という金を主人公は持った事がなかったので随分遊べるなとか、江戸っ子は宵越しの銭は持たぬみたいな豪遊ができると考えていた。この言葉、それだけ江戸時代は仕事があふれていてなんとか食っていけるという高経済の意味があったらしい。
小学校六年の頃、主人公は恋をしていなかった。さすがに六年間も同じ釜の飯を食う女子達は恋愛対象というよりは家族兄弟のようにみえていたのかもしれない。
だったらこの話なんだよとお思いかもしれないが、主人公は恋をする。それも修学旅行以降には行った覚えのない奈良という土地で。
基本的に主人公は遠足とか社会見学とか修学旅行とか大好きなんだ。だが、どうしても一つダメなものがある。
バス酔いである。
電車とかであれば問題ないんだ。だがしかし、バスはあの匂いといい、高さといい、揺れといい。最強に吐き気を催してくれる。
さらになんとか主人公が我慢していても、大体ゲロっちゃう奴がいて、そいつの音とか聞いていると主人公の意気地も折れそうになる。この学校という同じ年齢を人数ごとに収容する組織においてゲロを吐いたらもう最底辺カースト落ち。通称都落ちするわけで二度と戻る事は不可能だろう。
そんな状態において抜かりはなかった。何故抗ヒスタミン剤が乗り物酔いに効くのかと主人公はこのころは疑問にも思わなかっただろうが、酔い止めを飲みあの巨大なバスに搭乗する事となった。
高速乗って息を吸って吐いたら奈良にはついた。本当にそんな距離なのである。奈良にあるボロいホテルに荷物を集めると奈良市内観光である。奈良をディスるわけではないのだが、その辺に鹿が闊歩しており日本じゃねぇと主人公は真剣に思った。所謂班行動なる事をして、何処に行くかをあらかじめ決め進んでいく。かの有名な東大寺だけ全員で参拝するとあとは若い者同士ご自由にという事だった。
「春日大社綺麗だねぇ!」
班の誰かが言った事だったのだが、鹿をおちょくっていた主人公は余裕で一人迷子になる。ここで驚かないのは十二歳にしてスカした主人公であった。まぁ最悪電車乗れば家帰れるかとそんな事を考えていた。
ドデカバーを齧りながら主人公はその辺をきょろきょろと見渡すと主人公の班ではない同じ学校の連中がいるのでそれらに聞いてまわり、主人公の班のメンバーを探す旅へと出かける。そんな中である。主人公が詩織さん(仮)と出会ったのは……
彼女は何処かの中学か高校の制服を着ていた。残念な事に彼女が中学生だったのか、高校生だったのか記憶にないのである。
「君一人?」
声をかけてくれた彼女は何か文庫本みたいな物、もしかすると手帳だったのかもしれないがそう言った物を持った清楚な文学少女だった。みんなが迷子になった事を伝えると、詩織さんは笑う。主人公が迷子になったんじゃない? とは言わないところが大人だった。そして、おっぱいが大きかった。
「そっか、じゃあ私と一緒にみんなを探そうか?」
「詩織さんは何してんの?」
「私? 私も君と一緒。一人なんだ」
多分、彼女は女子中とか女子高とかでハブられてるんじゃないかなとなんとなくこの時に主人公は察してしまった。彼女の口真似をしてそっかと主人公は言うと彼女の手を繋いだ。
「へぇ、かっこいいじゃん」
忘れもしない。主人公が生まれてはじめて女性からカッコいいと言われて日である。君がカッコいいといってくれたから、〇月〇日はカッコいい記念日。
詩織さんと手を繋ぎ、確か好きな食べ物の話とかそんなくだらない会話を繰り返したんだと思う。これも残念ながら覚えてはいない。
「あっ、班のみんなだ」
それでも覚えている事があった。この言葉を聞いた時の詩織さんのなんだか悔しそうなそれでていて諦めたような笑顔を主人公は多分忘れない。
「君は長生きするんだよ」
多分一言一句こう言ったハズだった。そして主人公の唇は詩織さんの唇で塞がれる。舌を絡めるなんて高等技術はお互いに知らなかった。ほんの一秒なかったキスだったんだろう。この事は主人公にトラウマを残す事になる。
そう、小学生でもさすがにわかるんだ。彼女がこの後、自殺したかは主人公は知らない。だけど、彼女は恐らく死にたいと、自殺したいと思っていたに違いない。
今でも思うが、彼女に主人公はなんと言ってやれば良かったのだろうか?
そして、子供は残酷な生き物である。主人公は一日放心はしていたが、翌日からは詩織さんの事を段々と忘れ無邪気という名の狂気を纏って修学旅行を楽しみ、そして主人公の愛する西宮へと帰る事となる。
そうして主人公の六年間は終わり中学生への進化を遂げる事になる。
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