第4話 西宮の中学生はトライやるウィークで成長する

 西宮市の中学二年生にはまぁまぁ有名でかつ、迷惑なイベントがある。日本全国でどのくらい行われているのかは知らないが、西宮には『トライやるウィーク』という今なお続いている職業体験週間がある。

 ちなみに主人公達の代からこれは始まったのである。

 今は一体どんな職業が選択できるのかは不明であるが、主人公の時代でもかなりの職業選択ができた。例えば、吉本興業。


 例えば、遺跡発掘。

 もう驚きでしょう? まぁ仕事と言えば仕事だが完全に遊びじゃないのか? みたいな物も沢山あった。ベターにコンビニや本屋、スーパーとかを選ぶ中、主人公は遺跡発掘とかいう頭の悪そうな仕事を選んでしまった。

 その遺跡発掘を選んだ時のメンツは全員が全員男子生徒達だった。それも全く知らない顔ぶればかり、はて? このメンツで主人公が恋愛をするか? するわけがない。


 主人公に同性愛の気はないのである。

 阪急夙川駅から電車に乗って、乗り継いで神戸の灘区あたりへと主人公達は向かう事になる。ちなみにこの頃までまだ阪神大震災の爪痕は強く残っていた。

 というのも、阪神大震災で遺跡がいくらか見つかってしまい、そこの撤去や再開発ができなくなったとかなんとかであった。

 まぁ、主人公は中学二年生だったので実際どうだったかは記憶が薄れてきているのだが……

 主人公達は恐らく神戸市立博物館に最初連れていかれたハズである。そこで主人公達を一週間指導してくれる指導員の女性。



玲子れいこです。宜しくね」



 首から勾玉の形をしたネックレスをした二十代くらいのお姉さん、なんというか凄い良い匂いがするわけで、主人公は秒殺で惚れた。

 この玲子さん、とにかく優しいのと、ちょっとエロいのである。妙に主人公に体を密着させて、発掘するスコップとかの使い方を教えてくれる。

 そして耳元で……



「上手ね。ウフフ」



 みたいな事を言われればそらぁ、主人公も元気な男の子なので色々想像してしまいますわ。ほんとにね! このお姉さんと一週間も一緒にいれるのかと思うと嬉しくて仕方がないわけです。

 大体朝の10時頃から16時頃まで全力で業務にあたるが遺跡発掘であった。1日目は博物館で色んな土器等の勉強をして、それから現場でどんな風に遺跡発掘を行うかを延々と語られ、昼食を食べて終了。

 同じ学校の連中と阪急夙川まで電車で帰り、別れるのだが、この阪急夙川駅の横断歩道を渡った目と鼻の先には日本でも有名な西宮のパン屋さんがある。

『マーメイド』である。


 本店は意外と知られていないが、この西宮は阪急夙川にある店なのだ。こここの当時からクソ高いパン屋さんであった。

 というより、この当時はチェーン店のパン屋はあまり見られなかった。ドンクやビデフランスなんてパン屋は西ノ宮にはなく、有名どころの神戸屋くらいだったんじゃないかと思う。

 それ故、主人公にとってお金がある時はここのパンを食べる事がちょっとしたセレブ気分を味わう事ができたものである。

 主人公はやはり頭の中がピンク色だったので、玲子さんに何かお土産をと考えていた。このお店のパンはどれも美味しいが、やはりパンは日が経つと固くなる。少し味が落ちてしまうパンよりはビスケット系かと焼き菓子を見るとパン屋さんならではのあのお菓子。



「ラスクくださいな!」



 まぁ、クソ高いラスクを一袋買って主人公はそれを鞄に忍ばせた。ぶっちゃけ、年上の女房は金の草鞋を履いても探せというが、十四歳の主人公が二十代の玲子さんと付き合ったとしてもおかしくはなかったんだなと思う。

 なんせ、有名アーティストのHYの女性ボーカルの人も中学生の男の子と付き合い結婚したわけだ。

 主人公は発掘に関しての本を一冊買うとそれを読んで付け焼刃の知識をつけて翌日のトライやるウィークに赴く事になる。

 翌日は炎天下の中、スコップとなにやら土を平にする謎の道具で延々とおっさん等に交じって発掘を行う。



「結構暑いね?」

「君が肥えているからじゃないかい?」



 これは本当にぶん殴ってやろうかと思った。まぁ中学生である以上ガキ同士なのだ。主人公は案外空気の読めるガキだったが、この頃の中学生の殆どは意味不明に自信過剰で自分は特別な存在であると勘違いしている愚か者共ばかりであった。

 彼もそんなタイプの小石君。

 正直ねぇ、主人公は頑張って彼と仲良くしようとしたが、彼は主人公の何かが気に入らなかったようで、この遺跡発掘の間目の敵のように嫌われたのを覚えている。


 今だから言おう。

 本気でぶっ飛ばしておけばよかったと……主人公、これでも喧嘩で負けた事はなかったんだ。但し、誰かを殴ったりするのは当然好きじゃないし、抑止力として空手を学んでいたくらいであった。なので、我慢とその頃は考えていたんだろうな。

 えらいぞ! 当時の主人公、過去に戻れるなら抱きしめてやりたいよ。

 そんな小石君にイラつきながら主人公は玲子さんの指示に従い作業を進める。小石君はそこそこ勉強ができるタイプで上品な家に生まれたのだろう。

 彼の発掘を行った部分は綺麗に整っていた、その度自分の作業スペースの丁寧さをアピールするので主人公とその他連中は無視を決め込む事にする。

 少しだけシャベルで掘る。そして小さな箒みたいな物でその部分を撫でる。そして発掘専用の謎の器具でほじくる。

 実にちまちまとした作業であり、中学二年生にして主人公はこう思った。


(この仕事は俺には死ぬほどあってねーな)


 ただただ時間を忘れて土をほじくる事だけを考えているとお昼がやってくるのだ。お昼は唯一の楽しみ。

 労働者になると食が唯一の楽しみであるという事を知るのにこのトライやるウィークはまぁまぁ重要だったのかもしれない。この頃の主人公はまさか後に文字を書いて少しばかりのお金を主人公がもらえる立場になっているとは思いもしないだろうが……

 主人公はコンビニで買った飯を喰らいながら鞄の中に『マーメイド』で

購入したラスクが入っているのを思い出す。

 みんなが死んだ魚みたいな目でパンとかを齧っている中、主人公は席を外しラスクを持って玲子さん元へ向かう。



「あの玲子さん」

「どうしたの? 気分悪い?」



 この主人公の事を気遣う言い方ですらエロい。文字でしか伝わらないのでこれを教えてあげる事は難しいが、昔にテレビアニメで放映されていた不二子ちゃんみたいな口調なのである。最近の不二子ちゃんはニュースとかでナレーションをしている沢城さんが声優を務めている。凄く素敵な声なのだが、あの不二子ちゃんのエロさというのは少々控え目になっているような気がする。

 話は脱線したが、全てに関してエロい感じだったのである。当然、恥ずかしそうに主人公はラスクを玲子さんに渡した時。

 玲子さんはラスクを見て「これ私に?」

 とあざとく聞き返してくるので主人公は頷いた。すると嬉しそうに笑い、ありがとうとただ一言いう。


 うん、実にエロかった。

 このトライやるウィーク、三日、四日と日が経つにつれ主人公達の発掘能力は相当なレベルに達していた。馬鹿棒の使い方も極め、水平器を使い発掘する場所を選び、一番の手柄は半分程割れた土器を発見した事だろうか?

 主人公達中学生では最終的な処理で壊してしまうかもしれないので大人の人たちに変わったのでそれがどういう物かは分からなかったが、一週間で主人公達は確かに相当な成長を遂げていた。

 そして最終日となる。その頃になると小石君以外の生徒とはかなり仲良くなっており、主人公に一人の少年がこう言ったのを覚えている。



「玲子さんってお前だけ結構特別視してるよな? 距離感とか? お前童貞狙われてるんじゃない?」



 なんと嬉しい事を言ってくれるんだろうと主人公は馬鹿だったので「何いってんだよぉー!」みたいな反応を示していた。



「お前もその気があれば告っちまえば?」



 みたいな感じの事を言われ、もしかしたらワンチャンあるんじゃないだろうかと主人公もそう考えて最終日の現場へと向かった。

 最終日の現場はいつも通りただただ土をほじくり返す感じであった。玲子さんも各方面に指示を出して特に何かあったわけではなかった。

 しかし、お昼頃だろうか?



「君、ちょっといいかな?」



 少し憂いを帯びた玲子さんの表情に否応なしに主人公は心音が高くなるのを感じた。「大丈夫です」と主人公も玲子さんについていく。

 みんなと離れた場所で玲子さんは笑顔を見せてくれた。



「この一週間、結構ベタベタしちゃって迷惑だったかな?」

「いえ、そんな事は……むしろちょっと嬉しかったです」

「そう、良かったわ」



 これは主人公の事好きですフラグじゃねーかと思って玲子さんの言葉を待った。すると玲子さんは主人公にこう言った。



「君、阪神大震災で亡くなった友達によく似てたんだ。それでちょっと嬉しくてスキンシップが多くなっちゃった。でもありがと……私も嬉しかったよ。私ね。来年結婚するんだ」



 その後の話は全く聞き取れなかった。確かその友人の事がちょっと好きだったとかそういう系の話だったような気もするが……

 当然中学生のガキを恋愛対象にする大人の女性なんているわけないじゃないかと主人公はここで現実を知り少し大人になった事をここで激白しよう。

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