第2話 ルアーで魚は釣れども女の子は釣れない

 盆踊りという物をご存知だと思う。西宮において(塩瀬の方は同じ西宮でも他県くらい遠いので知らん)お祭りというものがとにかく少ない事を説明しておこうと思う。どのくらい少ないかというと大きなお祭りといば初詣で各神社や寺院のまわりに出店が出るか、あの副男レースで全国区となった西宮戎の十日えびすか、門戸厄神の厄神祭くらいなものである。アニメやドラマなんかで行われている夏祭りとか余裕でない。花火大会も隣の市の芦屋に行くか大阪淀川の花火大会にでも行かない限りはお目にかかれない。


 そんな中でも盆踊りだけはやたら行われている。何故なら各小学校が盆踊りという名の盆前に盆踊り大会を行っているのである。

 主人公の卒業したクソ小学校でもそれは当然行われている。主人公達も異様に安い出店の食い物でも食べに行くかと悪戯仲間達と夕方より母校へと冷やかしに行く事になる。



「とりあえずラムネから行こうか」

「それは正解に近いと思うぜタマキちゃん」



 先に言っておくがタマキちゃんは女の子ではない。主人公の幼馴染であり同じ年の男の子だ。この友人と何が正解に近いのかは分からないが、ラムネという飲み物

このころでも既に出店か銭湯しかもう飲めなかったのである。今でこそドンキホーテなんかですぐに買えるがレアジュースとして瓶の飲み物は重宝されていた。

 中学生になった主人公達は少しばかり調子にのった顔で母校へ入る。そう、そこでとんでもない物を見る事になるのだ。



「あれ、すっちゃん?」



 そう、小学、中学と同級生だった鈴井君がなんと、女を連れて盆踊りにきているのである。なんとも色気づいた十三歳かと思う。



「そちらは……?」

「こいつ? 俺の彼女」



 名前は知らないが、彼女と言われて少し恥ずかしそうに頭を下げる少女。この少女バレー部に所属しており、後々主人公はややこしいというかとばっちりをくらう事になるのだが、それは後半を楽しみにして頂きたい。



「へぇ、そうなんや。へぇ……」



 主人公は心の底から、叫びたかった。西宮の中心付近で「誰か、助けてください!」とそれからはスーパーボール掬いもヤキソバも全く楽しむ事もなく、ただただラムネの本数が増えた事だけ覚えている。



「ちょっと飲みすぎやで?」



 そういうタマキちゃんの制止を振り切りラムネをがぶ飲みした主人公は帰り道に吐きまくる事になる。



「うぉぉおおおぇええ!」

「ほらいわんこっちゃない。どないしてん? らしくないで」



 このタマキちゃんは女子と付き合うところかそういう事に一切興味がない。主人公はただただ悔しいやら情けないやらで泣き、吐いた夏だった。新学期が始まって主人公は物凄い面倒な目に合う事になる。主人公はバスケットボール部、鈴井君の元彼女はバレー部。


 気づいた方は利口である。鈴井君とその彼女は別れたのだ。そしてバスケットボール部とバレー部は両方室内の部活だけあり、コートの取り合いになる。そこまではまぁ毎年の事らしいが、妙に主人公はバレー部女子に嫌われる事になる。

 本当に、これはなんでなんだろうというのが主人公の気持ちだった。まさか? イジメだなんて思っていたが問題は鈴井君が元彼女と別れた事にある。幽霊部員ではあったが、鈴井君はバスケットボール部だったのである。それから謂れのない嫌われは一年以上続く事になる。本当に主人公は何もしていなかったので、心がつまる思いで、女子バレー部の乳の揺れ具合を見ていた。


 ぶっちゃけ、今だから言うが女子バレー部はみんな可愛かった。バスケットボール部女子は微妙だった。それ故に主人公は胸が張り裂ける思いであった。

 さて、主人公は恋をしなかったのか? というと当然恋をしていた。それはアニメオタクの美羽の親友、茉莉という少女であった。どんな少女かというと、少し色黒のテニス部女子であった。見た目の愛らしさもさる事ながら主人公は声の可愛さにやられた。


 彼女は今でこそ気づかなかったが、大変男好きであった。そう、それもブス専である。主人公はまぁ人様に見てもらえるような容姿とは自分では言わないが、学生時代はそこそこカッコいいと一部女子、特に年下には言われてきたである。これに関しては高校生編でいくらでも語りたいと思う。それ故、茉莉の眼鏡にはかないにくかったのであった。



「おはよう」



 主人公がおはようと言うと茉莉は可愛い笑顔で返してくれる。



「おはよう!」



 木霊ですか? いいえ、茉莉です。そんな他愛無い会話、それだけで主人公は構わなかった。しかし、怨敵が近くにいる。そう、美羽である。



「茉莉、あいつとあまり話さない方がいいよ」



 黙れてめぇ! と怒りをぶつけてやりたかったが、それをしてしまうと主人公の心象が異常に悪くなる事は火を見るより明らかである。彼女と主人公の接点は今のところない。どうにかして仲良くなれないものだろうかと思っていたが、それは案外早くやってくる事になる。

 ブラックバス釣りが異様に当時はやっていたのだ。今は恐らくそれほどでもないもしれないが、ソシャゲをする学生くらいバス釣り人口がいた。それこそ、再び名前を借りる『涼宮ハルヒの憂鬱』にて映画を撮るシーンで登場する池。


 そう『大池』である。

 こいつはかなりでかいため池であり、もしかするとその内、池の水を抜く番組とかに登場するかもしれない。とにもかくにも外来生物が多い。大物が釣れたかと思うと雷魚か巨大なミシシッピアカミミガメだったりする。

 主人公もブームにのり釣りを部活以外の休みに楽しむのが日課であった。主人公は少しだけ変わっており、野鯉釣りが好きであった。


 ブラックバスはルアーなる疑似餌で釣る事を面白味にするのだが、一度かかってしまうと簡単に吊り上げれてしまう。正直、楽しくはない。しかし、鯉のパワーは化物じみていた。海釣り用の釣り竿に海用の仕掛けでも糸を切られる事がある。異様なまでのバイタリティがあり、一匹吊り上げるともう疲れて満足できる程。

 そんなある日、仲の良い友人数人で大池に釣りに行った時、なんと……茉莉が弟らしき少年と共に大池にやってきていた。



「茉莉! 何してるん?」



 そう、主人公はいたって自然に話しかける。私服も可愛いなとか思っていたが顔には出さないポーカーフェイス。



「弟が雷魚? 釣りたいんだって、それでお母さんが見とくようにって言われて、みんな釣り好きなんだねぇ」



 これはチャーンス! であった。雷魚の釣り方は主人公が実は確率させていたのである。ブルーギルなる外来生物。こいつは針だけでも釣れる相当オツムの弱い魚。こいつを一匹吊ってこれを生餌にして水草の映えている所に入れていくと雷魚はほぼ100パーセントかかる。この釣り方を教えてあげ、弟君の仕掛けを手持ちのてぐすやら針で強化し、釣り方をレクチャーしてあげる。



「お兄ちゃん、いいのこんなに?」



 正直かなりの散財になった。海用の十号のワイヤーみたいなてぐすに特注で作ってもらった強力な釣り針、これは1メートル超えの巨大な鯉を吊り上げる為に主人公が用意したリーサルウェポンであった。



「いいよいいよ。全然使って!」



 カッコいい男を頑張って演じたのである。茉莉は両手をマリア様のように握ると主人公に感謝する。

 これきたんじゃね? 落ちたんじゃね? とか本気で主人公は思っていた。なんたって、茉莉の弟は60センチくらいの雷魚を吊り上げたのである。弟になつかれる主人公。茉莉のハートもゲットしたと思っていた。

 何故なら、それから学校で茉莉と話す機会が段々と増えてきたのである。最初こそいやいやだった美羽も話に入ってきてなんとかあのぎくしゃくした空気もなくなってきた。そう、全てが上手く行ったように主人公は思っていたのである。



「次はいつ釣りに行くの?」



 特に行く予定はなかったのだが、休日に茉莉に会えると思った主人公は適当に日取りを決めてそれを伝えた。



「弟連れていくから、また教えてあげてくれないかな?」

「あー、全然いいよ」



 おしきた釣りデート確定。天国ループだと主人公は鼻の下を伸ばし、当日を待った。いつも通り釣りをしている時に弟を連れた茉莉がやってくる。なんだかいつもよりおめかしをしているようにも思える。今日はワンちゃんキスくらいまでいけんじゃね? とか思っていたら、別のクラスのサッカー部男子、まぁまぁ特徴的な顔をした男子が現れた。なんだコイツは? というのが主人公の全力の気持ち。



「えっと、香川だっけ?」



 彼は香川(仮)という。



「おう! バスケ部の奴やんな?」



 このサッカー部の誰にでも仲の良いテンションが主人公には受付なかったが、今思えば凄いスキルだったし、別に悪い事をしているわけではないので、この当時の主人公が相当腐っていたんだろう。



「茉莉、じゃあいこっか?」

「うん!」



 腕を組んで大池からいなくなる二人。主人公は心の奥底から神に願った。あの二人に不幸あれと……

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