第1話 中学最初の恋は腐女子と共に
正門の前に巨大な石碑的な物がデカデカと見える。
『死ぬな、怪我すな、病気すな』
まぁ正直な話、主人公はあー、ここはやべぇ所に来てしまったなというのが第一の感想であった。どいつもこいつも同じ服を着て並んでいるのを見ると正直気が滅入る。制服ってのは家庭環境が見えにくいのでいいらしいが、どうも主人公はこういった固い服を着るのが苦手であった。今思えば動物的であったのだろう。花の飾り的な物を上級から胸につけてもらい、整列する。不良連中は既に不良連中の先輩どもと仲良くしている。主人公は心底思った。
「あーはなるまい」
と……主人公は性格上気が短いが不良という連中には嫌悪感を感じていた。降りかかる火の粉程度は払えるように短い木刀を鞄に忍ばせていたが、これを使う事は中学三年間においてはなかった。驚くかもしれないが、武装するなど当然のごとくイカれた学校であった。度々名前を出すがかの有名なラノベの主人公は本当にこの中学出身なのか? 嗚呼、この中学出身だから高校がつまらなかったのかと今なら思える。
さて、主人公のクラスはよくも悪くもそこそこに仲良しクラスだったのではないだろうか? 女子も男子もまぁまぁ空気を読める奴と一部のお調子者で出来上がっていた。そんな中で皆が仲良くなるのには時間はかからなかった。
そして担任の英語の先生がまぁまぁ強烈な先生だった事もよかったのかもしれない。自己紹介やらなんやらしていく中で一人群を抜いて頭のおかしな女子生徒と遭遇する事になる。
「俺は……」
一人称俺……嗚呼、こいつヤバい奴だというのが主人公の第一印象。基本かかわらないようにしようと思う。主人公が通っていた小学校はアニメや漫画を子供として楽しむ者は多くいたが、残念ながらオタクや腐女子という存在に関しては随分遅れていたようだった。この少女、実は中学一年生の主人公は案外仲良くなるのである。
こいつ、すげー五月蠅いのだが、絵が上手で美術の時間に主人公はこいつと話す事になる。こいつの名前は美羽(仮)。美羽は、仲の良いコロニー相手では竹を割ったような性格というべきだろうか? すごく細くて華奢な子であった。
それは美術の時間だっただろうか? 主人公はまともに形を絵で描く事ができない程度には絵が下手なのである。
人物デッサンなのに美羽はラノベ調のイラストをグロッキーと書かれたスケッチブックにさらさらと描いている。
「お前、絵上手いな」
これが主人公と美羽のファーストコンタクトだったと思う。それに美羽は「ほんとですかぁ? ありがとうございます!」
と、誰こいつ? みたいな女を見せてきた。ぶっちゃけ、この美羽は可愛いか可愛くないかというとまぁ普通と形容しておこう。まぁ、主人公が勝手に可愛いか、可愛くないかの判断をするのもまた酷い話なのだが、中学に上がると化粧をはじめる色気づいた女子もいたわけで、この美羽はそういうのにはまだ無縁だったわけだ。
なので、今思えば彼女は可愛かったのではないかと主人公は思う。
うん、そうに違いない。この美羽とは主人公が生まれてはじめて女子なのに親友と感じれるような間柄になったのである。その一つとしてラノベである。
この当時、『スレイヤーズ』が流行っており、アニメもやってれば漫画も色々売っていた。彼女はそれが好きでなんと主人公も読んでいた。主人公は『スレイヤーズすぺしゃる』も全巻読んでいたのである。彼女とはそれで本の貸し借りをしたりするようになる。美羽としても、主人公みたいな男子は初めてだったんだろう。
二人の待ち合わせの場所といば阪急夙川のマクドナルドであった。このマクドナルドが面白い事に食べる席が販売している店舗の上の階にあるのだ。こういう作りのお店はよくあるのかもしれないが、上がっている最中に予備校だか、塾だかがあり、ここの生徒達も勉強がてらよく使っていた。
今の子供達には信じられないかもしれないが、ハンバーガーが一個65円で販売している時期があり、本当に重宝した。この日も主人公は安いハンバーガーとコーヒーを頼み美羽とアニメや漫画について語っていた。
「俺はめぐみさんみたいな声優になりてぇーんだよ!」
そう、彼女の当時の夢は声優だった。今となっては恐ろしく狭き門なのだが、まだこの頃は少しばかり光は見えたかもしれない。しかし、どんな仕事であれ忍耐は必要であり、この美羽を含む声優になりたいと望む者に主人公は随分会ってきたが大概忍耐が弱すぎる連中が多かったように思える。
「そうかそうか、頑張るといいよ」
主人公はザ・話を合わせる妖怪であった。とりあえず可もなく不可もなくな事を言っておいた。今、だから冷静に分析できるのだが、多分美羽は主人公に惚れていたんじゃないかと思う。
「お前は夢とかないのかよ?」
それは、合った。まさに今行っているように文字を書く仕事である。実際、こいつを本業にする事はできなかったが、なんとかプロという肩書は手に入れたので一応主人公は夢をかなえたんだろう。
「う~ん、サラリーマンかなぁ」
と嘘をつく主人公。中学生のころは自分の夢を語るのが恥ずかしいみたいななんか変なところがあったんだろう。そう、主人公と美羽がこのマクドナルドでオタク会話をしているのも同じような理由だったのである。今となってはオタクという称号はたいして恥ずかしいものではなかったのかもしれないが、この当時はアニメが好き、漫画が好きというと妙に白い目で見られるところがあった。
美羽はどういう気持ちだったかは分からなかったが主人公はとりあえず一番奥の席で勉強道具でも持ち寄りながら会話をする事で隠れオタクを気取れたのだが、どうも美羽はこの行為をデート的な何かだと思っていたのではないかと思う。ぶっちゃけ主人公もシェイクをちゅーちゅー吸う美羽をちょっと可愛いなとか思っていたりもした。上目遣いに美羽は主人公にこう言ったのが今でも印象的である。
「一緒に声優目指さない?」
残念ながら主人公は声優という職業に一ミリも興味がなかった。主人公の中で声優という存在は俳優や女優みたいなものなので、まず演技なんてした事のない主人公ができるわけがないという固定観念があったのかもしれない。今となってはもしできる機会があれば土下座をしてでもするかもしれない。まぁ演技力はお察しなのだが……
「ごめん、全く興味ないや」
正直にそう言った時の美羽の顔はなんとも寂しそうな笑顔だった。もし、過去にもしなんてことはないのだがここで主人公は美羽と声優の道を選んでいたら、声優にはなれなくとも恋人にはなれたのかもしれない。この一件が元になったのかは分からないが美羽とは同じクラスにいても疎遠になっていく事になる。多分、美羽は主人公は自分と同じ側の人間だと何処かで思っていたのだろう。だが、実のところ自分が嫌悪する側の人間である事に気づいた。とかそんな事を今なら冷静に分析できる。主人公もなんだかなんだか気まずくなり美羽とは話さなくなっていく。思春期というやつをこじらせたのか今となっては分からない。そんな主人公と美羽を再び結び付けてくるイベントが発生する。
それは我が愚かな中学の体育大会伝統である『ムカデ競争』である。中学一年、二年、三年でムカデの長さが違うのだ。三年はクラス全体でムカデになる。二年生は男女別々で中ムカデになる。一年生は男女混合で班ごとにムカデになる。
そう、主人王と美羽は同じ班なのである。このころの女子の体育の恰好はブルマであった。ぶっちゃけ、目の保養になる。美羽と主人公はお互い気まずい中で美羽を先頭に主人公が美羽の後ろにつながる。
「いち、に、でいくね?」
「う、うん」
喧嘩をしているカップルのようなそんな空気の中、練習をスタートする、美羽は女の子だけに柔らかくいい匂いがする。主人公の胸の鼓動は余裕ではやくなり、それは多分美羽にも伝わっていた。何故なら彼女は耳まで真っ赤になっていて彼女も彼女なりに意識していたようだった。
しばらく練習をしていた時だったと思う。あのムカデ競争。こけると芋ずる式にみんなこけるのである。美羽は運動神経はあまりよくはない。躓き、こける。主人公は美羽を潰すまいとこらえる。
「大丈夫か美羽?」
「う、うん」
普通であればここで後程ハッピーエンドルートが確定してもおかしくはないんだが、立ち上がり土を払うと再び練習を再開する。そして体育大会でムカデ競争を行い。それで終わりである。
主人公と美羽はついに最後の最後までギクシャクした感じで再びよりを戻すような事はなかった。それをバネにしたのかは分からないが、主人公はしばらく入部していたバスケットボール部に打ち込んでいく事になった。
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