第2話 主人公は狭い範囲で車に乗る

 主人公が大学二年生になったころである。それはバイトも順調、大学にも慣れて授業もまぁなぁなぁでやっていた。

 そして、主人公は車を手に入れる事になる。驚く事にどうやって手に入れるか? 懸賞なのだ! これには主人公全力で驚いた。

 これも今は無き尼崎の巨大中古車センター、阪神オートセンターのイベントになんとなく行ったんだが、そこで抽選で中古車が当たる! みたいなイベントをやっていたのだ。なんとなく可愛い軽自動車、ダイハツのオプティクラシックに一票入れてみたところ、まさかの主人公の名前が呼び出される。


 保険代やら十万程支払ったところ、なんと業者が夜逃げした。これが主人公怒りの車奪還作戦という有名な事件である。

 何処で有名かって? はい、主人公の中だけでです。この阪神オートセンターであるが、巨大な敷地内で多数の中古車業者が商いをやってた、何かお金の問題だったのか、主人公が買うハズだった業者は突然姿を消したらしい。

 車という特性上、絶対に何処かにあるハズであると主人公は思い警察に通報すると同時に、何処に運ばれたのかを調べに調べ上げた。


 ただ、少しだけその夜逃げした業者に関して言える事として、早く車を取りに来てくれないかという電話があったのだ。

 なんだせかすなと思っていたのだが、こういう事だったのかもしれない。まぁ、こいつらが悪人である事は確かなんだが……

 何処かに運ぶとしたら港か? という事で次々に当たると、それはビンゴだった。主人公の車が何処かに運ばれる準備中で見つかった。

 なんのかんのあったが主人公は自分の車を取り返す。これに関して警察は一切力を貸してはくれなかったが、主人公のちょっとした特殊能力を出してしまった一場面であった。


 車を手に入れてから、車がいかに良いものかを知る。

 それはバイクが不要になっていくという事に等しいのだが……

 この大学二年生の頃になると、高校の頃によく遊んでいた舞ちゃんと真世ちゃん、そしてサヤちゃんの三人と再び遊ぶようになっていた。

 高校の頃の友達とは音信不通になった主人公が地元で会える連中は彼女達だけであったし、まぁまぁちやほやしてくれるので楽しかった。

 逆オタサーの姫的な感じで主人公は二年生の時間を過ごす。


 あの花火大会以降舞ちゃんとの関係は距離を置いていたが、妙に真世ちゃんとサヤちゃんは主人公との距離が近い。

 この二人、いや三人とのお話である。主人公は結果としてこの三人の内二人とは付き合う事になる。

 おめでとう! 主人公のつまらない恋愛話の終わりじゃないか! とか思うだろうか? これは大学生となった主人公、大人の物語なのだ。同じ失恋でも告白に失敗したとか、想っていたまま終わってしまったとかではない失恋もあるんだ。


 最初に付き合ったのは確か、真世ちゃんだったろうか? 彼女は多分舞ちゃんと自分を比較する癖があったんじゃないかな? 舞ちゃんは正直、男が好きな女の子を演じれるタイプの女の子だった。

 真世ちゃんはそんな舞ちゃんの親友をやっていたからか自分に少し自信がないようで、主人公と二人っきりになった時に、彼女は主人公に二人で何処かに行かないかとそう言われたんだと思う。丁度車もあるので主人公は彼女を連れて少しドライブをして、今は無き43号線沿いのカラオケボックスへと向かった。


 二人で入室するのに、ちょっとした会議室みたいな広さの部屋にとおされるのがこのカラオケボックスの凄いところであった。結構、西宮のカラオケオフ会なんかに使われていたように思える。

 阪神西宮駅近くのジャンカラが出来てここはつぶれてしまうのだけれど、それまでは一強として常に聳え立ってた。

 ジュースとアイスを入れて二人で部屋に行く、真世ちゃんが妙にそわそわしているなと主人公は気が付いていたが、男と二人きりでカラオケに来たんで今更ちょっと怖くなったのかな? 程度で想っていたのだが、それは逆の意味で違っていた。

 何曲か歌っていると、真世ちゃんにデンモクを渡したが、彼女は曲を入れない、上着を脱いで、体のラインが見えるような状態で主人公に迫った。


 本当に一体何が起こったのか主人公には理解ができず、そして引いてしまっていた。だが、今思えばなんという軟弱な男だったのかとただただ過去の自分を恥じるばかりであった。



「真世ちゃん、やめよう! ダメだよこんなところで」



 優しく真世ちゃんの肩に手を置いて、彼女を諫める主人公だが、女の子が勇気を出して行動に出たものを主人公は結果的に拒否してしまった。



「ごめんなさい」



 今にも泣きそうな彼女に主人公は何も言ってあげれなかった。カラオケを再開する事もできず、真世ちゃんは主人公の車に乗る事もなく、タクシーを拾って帰った。

 何がいけなかったかは多分主人公がただ情けなかっただけだったんだろう。突然の事とはいえ、彼女を責めるわけでもなく、主人公は会いづらくなり、ゲーセンにも通わなくなる。

 そんな中、主人公の元にメールが届く、メッセージを見るとそれはサヤちゃんであった。最近主人公を見ないので心配したとかそんな類のメールであり、ゲーセンに来ないかと聞かれたわけだ。



「やぁ、久しぶり」

「お兄さん久しぶりです!」



 彼女がプレイするポップンミュージックを見ながら、ゲーセンってこんなにも面白くない場所だったかなと思っていた。



「ギルティギアします?」



 格闘ゲームに座って彼女と対戦を何度か繰り返した。多分全勝したんじゃなかったかと思う。多分目を瞑っても彼女相手でも主人公は負けない程度には上手かった。だが、この格闘ゲームというものももう飽き飽きしていたのかもしれない。



「サヤちゃん、ボウリングでもいかない?」

「ボウリングですか? やったことないですけど」



 サヤちゃんはこの頃からパンク系のファッションを好むようになっていた。お洒落な腐女子系なサヤちゃん。独自のサイトとかを持っていたように思えるけど、どんなだったかまではもう覚えていない。

 主人公の車で広田神社近くの関西スーパーまで行く、そこにはトマトボウルというえらい昔からあるボウリング場が聳え立っていた。

 ボウリングの玉は持ってみると少し重いと感じる物を選ぶ必要がある事をサヤちゃんに教え、彼女は6ポンドだかで主人公は15ポンドと12ポンドのボウリング玉を用意した。


 最初は投げ方のレクチャーをしてあげ、とりあえずガーターにならなければ楽しめるだろうと教える。

 難度か投げて、1ゲーム目が終わったあたりで、サヤちゃんに主人公の技を見せてあげる事にした。本来公式ルールでは許されていないのだが、指二本で投げると思いっきり曲げる事が出来る。これは当時の若い男は使いまくっていた。

 主人公、案外器用な人間なので、右回転も左回転も使いこなしていた。



「す、すごーい! どうやってするんですか?」

「ふっふっふ、教えてあげよう」



 そう言ってサヤちゃんと密着して教えてあげ、彼女が曲がるボールを投げようとした時、余裕でこけた。

 黒を基調とした服を好むサヤちゃん、この日は短いスカートをはいており、パンツが丸見えだった。それに隣のレーンで遊んでいる少年たちがニヤニヤとサヤちゃんを見る。

 そりゃそーだ。

 パンツみ放題祭りかもしれない。サヤちゃんは恥ずかしがって投げなくなったので、主人公は自分のゲームとサヤちゃんのゲーム分を投げる。

 実は主人公、中学生の頃にバスケットボールで肘を故障しており、これが一生治らないのだ。いまだに突然痛くなる事があり、医者に行っても原因不明ときたもんだ。

 その痛みが既にこの時、始まっており痛みを我慢しながら投げ終えた。

 明らかに苦痛そうな顔をする主人公をサヤちゃんは心配してくれる。



「大丈夫ですか?」

「うん、ちょっと腕が痛いだけ、そうだ! ケーキ食べていこうか?」



 この関西スーパーのすぐ目の前に、超うまいケーキ屋さんがある。さらにこの店はバターで焙煎した珈琲を飲む事ができる。



「食べたぁーい!」



 今にして思うと、中学生の頃はケーキなんて望んで食べられるおかしじゃなかったからこの大学生の主人公は本当にお金を持っていたんだなと思う。

 ケーキはオーナーが持って来るので、好きなケーキを選んで珈琲と一緒に食べるセットの物がオススメだった。

 牛皮粉を使われた和菓子みたいなケーキに主人公とサヤちゃんは目が釘付けになる。そしてそれを所望して食べる事、口の中へ天国が訪れる。珈琲も中々他では味わえない上品なそれに舌鼓を打って店を出る。



「今日は楽しかったです」



 サヤちゃんが楽しんでくれて主人公も良かったなと、車で彼女の住む鳴尾方面へと走る。その時、サヤちゃんが「あのね?」と切り出し、それはすぐに急ブレーキを踏む事態になる。



「私と付き合ってくれませんか?」



 それは、夢でも見ているのかという一言で、事故を起こしそうだった。

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