第3話 主人公10歳にして血の繋がっていない妹を知る

 駄菓子屋、それは主人公が小学生の頃においては夢の国そのものであった。この頃の主人公は東京ディズニーランドという存在は知らない。当然この頃にはUSJ大阪も存在してはいない。主人公の中で遊園地といえば、宝塚ファミリーランドか、阪神パークのどちらかだった。動物園と言えば王子動物園、水族館は須磨の水族館。


 この4つの施設で事足りる小学校生活が主人公の楽しみであった。

 そんな中、主人公は駄菓子屋に向かう。

 さて、阪急高架下の『たわらや』さんで買おうか、中前田町にある『わったん』に行くか、それとも阪急夙川近くの『麦畑』にゆくか深く、深く考えていた。

 それもそうだ。主人公の手の中にはなんと三百円という大金を持っているのである。お金があると心に余裕も出てくるものだ。



「ふむ、今日は市場の駄菓子屋だな」



 主人公の天才的な頭脳が割り出したのは市場の中の駄菓子屋、ここは顔が利いている。お小遣い制度のない主人公だったが、買い物帰りにおつりでうまい棒をよく買うお得意様なのだ。この当時の駄菓子屋というのはだいたい店のババァが子供を万引き犯か何かくらいでしか見ていない。

 それが市場の駄菓子屋のおばさんは違う。



「あら、今日もきてくれたのぉ!」

「あぁ、いつものを頼む」



 そう言って主人公は7UPを一本購入しそれを飲んだ。王冠にはまさかの当たり。事実とは小説より奇なりとは本当に言ったものだった。

 二本目の7UPを頂こうかと思った時、鈴を転がした声とでもいうのだろうか、デコレーションケーキよりも甘ったるい声で主人公が呼ばれる。



「おにーちゃあーん!」



 主人公には姉が一人いるが、残念ながら世界一可愛い生き物と呼ばれる妹はいない。ならば主人公を兄と呼ぶこの少女は一体誰かとお思いだろう。

 そう彼女こそが、今回のヒロイン。



「まおちゃーん、どうしたのぉ? お菓子買いに来たのぉ?」



 猫撫で声で話す不気味な主人公。まぁあれだった。二つ下の二年生の少女、いや幼女と言うべきかもしれない。

 他の学校はどうだか知らないが、我が小学校は六年生と一年生、五年生と三年生、四年生と二年生が義兄弟の契りという名の兄弟学級なる制度があった。今思えばこの名称に少々ドン引く。

 主人公はロリコンだって?

 ノンノン! 主人公はこの当時十歳、まおちゃんは八歳。その年の差二歳、ロリコンどころか付き合うのにちょうどいい年齢差だったわけだ。



「遠足のオヤツを買いに来たのぉ」



 まおちゃんはポニーテールが可愛いロリ……御姫様系の女の子だった事を覚えている。正直恋愛感情というよりは本当に妹が出来たようでうれしかったんじゃないかと今となっては思っている。



「そっかー、遠足かぁー、お兄ちゃんも遠足のオヤツ買いに来たんだったー」



 少しばかり馬鹿になりそうな会話の中、お兄ちゃんもとい主人公はまおちゃんとひとしきりオヤツを選ぶ事にした。

 この日の事はよく覚えている。本当によく覚えている。まおちゃんと主人公はオヤツを買って手を繋いで市場の中を歩んでいたんだ。この市場、端と端がゲームセンターになっている。ゲームセンターというと当時は本当に不良がたむろする場所であった。

 お兄ちゃんもとい主人公とまおちゃんはそれを忘れてその魔の領域へと足を踏み入れてしまった。

 速攻で中学生くらいのクソガキに絡まれる主人公。



「お前、金持ってない?」

「いや、持ってません」

「じゃあそのお菓子くれよ」



 今なら信じられないかもしれないが、当時の不良はまじで根こそぎ人の物を盗ろうとするクソ野郎ばかりだった。ちなみにこの絡んできたクソ野郎主人公が成長して再び会う事になるのだが、またそのお話は何処かで……



「いや、これ遠足のオヤツなんで」

「知るかよおらぁー! ぷろぉわぁああ」



 意味不明な事を吐くクソ野郎。主人公は実はどちらかといえば気性が激しい。父親には、喧嘩を売られたら殺せ! とそう育てられてきた。しかし、今回勝手が違う。お兄ちゃんもとい主人公には妹もといまおちゃんがいる。



「わかりました。あげますから」



 主人公はオヤツを差し出してその場を去ろうとしたのだが、クソ野郎はなんと天使たるまおちゃんのお菓子も所望してきた。

 それには主人公も引けない。まおちゃんは今にも泣きそうだ。ちなみに、この当時の不良は平気でマジ泣きしている幼女を蹴り飛ばすくらいはクソ野郎共しかいなかった。


 それを知っている主人公は臨戦態勢に入らざるおえなかった。相手は中学生、たかだか4、5歳年が離れているだけ……実際の体格差はすさまじいが、主人公も同じ穴のむじなでしかない。育ちが悪い分、汚い喧嘩の仕方くらいは知っていた。

 間髪いれず、煉瓦かブロック塀かは覚えていない物でクソ野郎の頭をおもいっきりぶん殴った。

 ちなみに、この物語に書かれている事はしないように! 主人公の子供の頃の子供は皆やばいくらい頑丈なので死なないが、一般人は下手すれば即死するので注意。



「まおちゃん逃げて」

「でも、お兄ちゃんがぁ……」

「お兄ちゃん強いから大丈夫、さっきの駄菓子屋さんまで走って」



 まおちゃんは躊躇しながら駄菓子屋に向かう。それを見送った後に主人公は腹部に重い一撃、頭が割れそうな激痛を感じる。クソ野郎のクソ仲間からの報復、どんな目に合うやら想像もしたくなかったが、主人公への攻撃は止んだ。

 本当に何事かと思った。



「おうおうおうおう! ウチの四年しばいとる奴はどこのどいつじゃ? 殺しまうぞぉ、コラぁ!」



 ちなみに、この台詞確か一言一句事実であり、しかも小学六年生のセリフなのだ。この小学六年生、身長が180cmくらいあり、アホみたいに喧嘩が強い兄貴分であった。下手したら高校生でものすんじゃないかという彼のおかげで主人公は大けがをおわずには済んだ。



「いやぁ、助かりました」

「お前は何をしとるんじゃボケがぁ!」



 かくかくしかじか、わけを話すとばしっと背中を叩かれて激励される。女の子を守る為に無謀なる戦い挑んだ主人公を先輩は褒めたたえてくれた。



「ほうかほうか、じゃあこいつら死刑じゃの」



 あんまり覚えてないが、不良漫画顔負けの暴れ方をして先輩は去っていったのを覚えている、主人公はもう温くなった7UPを彼に献上すると清々しい顔で先輩はこう言った。



「おう、すまんのぉ!」



 まぁ、主人公にBLの気があれば先輩に惚れてまうところなんだが、このころの主人公はまおちゃん一筋だったので、奪い返したお菓子を持って駄菓子屋に向かう。まおちゃんは主人公に抱き着きなきじゃくった。



「心配だったのぉ!」



 さて、主人公が女の子に抱き着かれたのは生涯で何回あっただろうか? この駄菓子屋も阪急の高架下を改装する際に無くなってゆくのだが、いろんな思い出があった。まおちゃんといちゃこらしながら遠足の日が来る。

 遠足は甲山登山。兄弟学級の子と手を繋いで進んでいくのだ。まおちゃんと主人公本当の兄妹のように山登りを楽しむ。まおちゃんが疲れたらおんぶをして、主人公が疲れたら休憩をして……



「お兄ちゃんあーん!」



 これはもう鼻血を出してもいいレベルだった。小桜餅という駄菓子をまおちゃんがあーんしてくれるのだ。



「あーん!」



 まぁ男なら当然そうなる様に主人公もデレッデレで間抜けに口を開けてそれを食べた。主人公はまおちゃんにデッカイ飴玉をプレゼントする。嬉しそうにリュックに仕舞うまおちゃんを見て買ってよかったなと主人公は思うのだった。


 登頂したところでお弁当を食べる。まおちゃんと主人公のシートで新婚のようなランチタイム。他がどうだったのか分からないが、クソみたいな小学校にしてはこの制度だけは褒められた物だったんじゃないだろうか?

 帰りにうとうとしているまおちゃんを主人公は背負って下山する。それに学校の先生が変わろうかというが、主人公は断る。


 ふざけんな! まおちゃんの体温と柔らかさを身体全体で感じてんじゃボケぇ! とかそんな変態的な意味ではない。

 まだこのころは綺麗だった主人公なので、最後まで彼女のお兄ちゃんとして遠足を終えたいと思っていたんだろう。金持ちの住処、甲陽園駅までたどり着くとあとは自由解散となる。主人公は奇跡的にまおちゃんの家を知っていたので、そのまま彼女をおぶって下校する。

 今思えば十歳で8歳の女の子をよくまぁずっと負ぶっていたなと感心する。最近は赤ちゃんをおぶるだけで体中が痛くなるのは……年だからかな?



「お兄ちゃん、大きくなったら結婚しようね?」



 唐突にお兄ちゃん、もとい主人公の耳元で聞こえる天使、あるいは悪魔の囁き。主人公は来年の遠足もまおちゃんと最高の一日にしようと決意した。

 来年はまおちゃんは三年生、主人公は五年生、また兄弟学級になると思っていたが、来年まおちゃんはお兄ちゃんではなく、お姉ちゃんに心を奪われる事になり、お兄ちゃんの事はアウトオブガンチューとなる事をこのころの主人公はまだ知らない。

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