第2話 阪神大震災とカップ麺の味
主人公はここ数週間、小学校の体育館にて寝泊まりしていた。それは何故か? とてもいい疑問だと思う。
1995年1月17日、主人公の住む西宮は一瞬にして空襲でもあったのかという凄惨な光景になる。いまだに覚えているが、周囲365度本当になにもないのだ。
主人公の住む市営住宅はコンクリートの分厚い壁と手抜き工事など許されなかった時代に建てられた建造物だったから、ヒビが走る程度で済んだ事は不幸中の幸いであった。
この地震、震度計が初めて導入された時に計測された物で震度計は振り切っていたとされる。最近まだ記憶にあたらしい、東北の地震や熊本の地震と違い直下型というとにもかくにも頭のおかしな大地震だった。
それでも主人公は意外とのほほんと生きていた。友人も死んだ。知り合いも沢山死んだ。だが、主人公もその家族も誰かを悲しんでいる暇なんてものはなかったのだ。
こう書くと主人公と主人公の家族がとても冷酷に思えるかもしれないので少しばかり説明をさせていただこうと思う。
今でこそ、震災が起きるとボランティアだなんだと動きが速いかもしれない。あの頃はインターネットもなければ、メディアが死者一人だなんてわけのわからない放送をしてしまう次第だ。救援物資なんてものはまず来ない。
お判りいただけるだろうか?
コンビニから食べ物が消え、浄水場へタンクを持って水をもらいにいくのだ。ちょっとした世紀末気分を味わえるかもしれないが、主人公はもうあんな経験はこりごりである。最初に食べた物は意外にも震災から一時間後、まさかの炊飯器の米が炊けていた。
「とりあえずご飯にしようか?」
主人公の家の大黒柱は化物みたいな天才で、どんな困難もクリアし、頭がよく器用だった。主人公はそういう意味では残念な程度には落ちこぼれであった。
これから書く事は事実以外の何ものでもない。もし震災にあった場合は何もなくてでもすぐに病院に行ってほしい。
「向こうの棟の〇〇さん、あんなに元気だったのに、内臓が破裂して亡くなったんだって」
これが誰のセリフだったのか、主人公には分からなかった。起きた震災よりも一番恐怖した言葉であった。
〇〇さんは恐らく震災の起きた時点で重症だったんだろう。それが分からないまま時間が経ち時限爆弾的に亡くなった。
もし、ちゃんとメディカルチェックできるような体制が整っていれば〇〇さんはもしかしたらまだ主人公の近所で笑っていたのかもしれない。
では、さらに事実のみを書かせていただく。主人公は配給が届くようになったころ、どんな物を食べていたでしょう?
1 ケーキ等ジャンクフードやカップ麺やコンビニ弁当
2 冷たいパンや、加工食品等。
3 食べる物なんてあるかボケぇ!
さぁ、正解は1です!
なんか、主人公の家の大黒柱がどこからともなく大量のカップケーキとカップ麺とコンビニ弁当を持ってきた。多分、会社の社長さんの粋なはからいだろう。元々ヤクザだか、なんだかの人が社長をされている建設会社だったのでそういう仁義的な物が強かったんじゃないかと主人公はいまだに感謝している。
さて、この話は主人公の恋物語なのだ。こんな悲しい震災のお話が続くわけはない。震災があってから二か月くらいは学校がなかったのだが、瓦礫が危ないと小学校の体育館にみんな避難してたんだわ。運動場には自衛隊の人たちがテントを張って仮設病院を作ってくれていた。 ちなみに、ここで一つ西宮市民を代表して怒らせていただく!
西宮のすぐ隣の伊丹市に駐屯している自衛隊の皆さんが助けにきてくれたんだが、当時も今もそうかもしれないが、自衛隊は命令がないと出動できないらしいんだ。でも伊丹自衛隊の隊長さんは命令がないにも関わらず国民を、西宮市民を助けに来てくれたらしい。それで始末書を書かされるのはどうかと思う。
それと、主人公が通っていた学校の教師共はそろいもそろってダメ教師ばかりで、自衛隊の方々を良く思ってはいなかった。というか日の丸を嫌う非国民の集まりであった。
主人公は右寄りの考えがあるわけではないが、ちょっとばかし奴らと奴らのイカれた教育に関してはいつかどこかで公表してやろうと思っていたのである。この場を借りてそれを少しお伝えした。
とまぁ本当に阪神大震災は大変だった。授業はないけれども子供というのは暇を持て余すものだ。昔は日曜日になったり、連休になると何処かに行きたいと言ったものだが、今や休日はパソコンの前でぼーっとする事に至福を感じる。
そんなこんなで、主人公はする事がないので、学校のウサギとにわとりに餌をやる事が日課となった。彼らはかなり長い事放置されており、空腹でバーサーカーみたいになっていたので主人公が手名付けるのは余裕のよっちゃんであった。
そんな餌やりをはじめる事一週間経ったくらいだろうか? そこで主人公は二度目の恋をする。
「あー、ウサちゃんの餌やりウチもやりたい」
関西らしくウチ人称の女子である。彼女は一つ下の学年のシホちゃん(仮)という名前を餌やり後に聞く事となり、毎日一緒に餌やりをしようねという餌やりデートルートに入った主人公。 もう一度書かせて頂く、西宮と人々は絶望に打ちひしがれている阪神大震災からまだ二か月の物語なのだ。
子供は残酷なのか、それとも大物なのか、慣れるものだった。ところどころ、子供達は様々な遊びを考え出す。
ゲームボーイで遊びだす物。ノートにSDガンダムの絵を描きまくって時間を潰す者。天皇陛下と皇后陛下が西宮市民にお声かけをして頂いた時でさえこの西宮市のガキ共は自分の遊びに集中していた。
本当に過去に戻る事ができたら主人公を含めて全員げんこつをくれてやりたいと本気で思う。そんなこんなで西宮市民は少しずつ元気と活力を上げていく事になる。
忘れもしない千円カップラーメン事件。
大阪からやってきた愚か者……これを読むと大阪のイメージが悪くなるかもしれないが、実際大阪は一部を除けば上品な街である事を弁解させていただく。というか時代的にこのころの関西は正直何処もスラム街すぎたんだろう。
話は戻すが、トラックで大量のカップ麺をもってやってきた大阪ナンバーのうつけ共がお湯込みでカップ麺を1000円で売りに来た。
今でこそセレブの住む西宮だが、当時は一般人かやっちゃんか分からないオッサン達で形成されていた。当然トラックはひっくり返されてんやわんやだったのを覚えている。
そしてこれまた本当にお前は高校生か? というようなオッサンみたいな高校生に主人公は声をかけられる。
「君、お腹すいているだろう! これ食べな!」
いやいやいやいや!
お前物凄く爽やかに言ってるけど、今しがたひっくり返したトラックから奪ったやつだろうと主人公は言える度胸はなく、二つもらってその無法地帯を去る事にしたのは語るまでもない。
「これどうすんだよぉ、ほんとイカれてんなこの街」
主人公は確かこのセリフを一言一句違えずに言った事を覚えている。カップ麺を両手に持ったまま小学校もとい避難している体育館へ戻る最中、本日の餌やりを忘れたわと主人公は飼育小屋へと向かう。
「あっ! こっちこっち」
そう、天使である。
シホちゃんは手を大きく振りながら主人公を呼ぶ。主人公は呼ばれるがままシホちゃんの元へ向かい一緒にウサギとにわとりの餌やりを行った。余談だが、ぶっちゃけもうウサギもにわとりもどうでもよかった。むしろ、足にまとわりついてくるので不快以外のなにものでもない。
「いいなぁ、ウチよりなつかれてる」
うん、主人公はシホちゃんに懐かれたいのだけれどとかゲスい事はこのころには考える頭はなかった。
「そうそうシホちゃん、カップ麺食べない? ちょっとそこいらい貰ってきたんだ」
「えー! 食べたい! でもお湯どうしよう?」
お湯は職員室に行けばもらえるだろうが、クソ教師に合うのは嫌だったので、主人公も顔がきく用務員さんにもらいに行った。
「おぉ、ボン女連れか」
「うん、まぁそんなところ。お湯頂戴」
「好きなだけ入れていけや」
この用務員という人物、職業は一体何で何者なのかいまだに主人公には分からない。今も小学校に存在しているのかすらも分からぬ謎の職業として恐らく墓場まで疑問に思い続けるのだろう。
だってこいつら学校に住んでるのに学校から出ていかないし、なんなの? 囚人かなんかなの? もう全然分からない。
そんな考えにふけっていると三分経った頃なので、主人公はシホちゃんと並んでカップ麺をすする。
「おいしいね」
なんて語っているとシホちゃんはもじもじと恥ずかしそう。これは告白きたなと正直この当時の主人公は思いましたとも。
「あのね? ウチね?」
「うん」
「熊本に引っ込すん。ウチの事忘れないでね」
シホちゃんは疎開ルートに入り、ただただ日清さんのカップヌードルのノーマル味がいつもより塩味が濃いなと思ったのは多分勘違いじゃないと主人公は思った。
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