第6話 カレーから始まる恋もある

 小さくそれでいてたいして美味くもないフードコートへと主人公とめぐは向かう事になった。前述したとおり主人公はたいしてお金を持っているわけではない。

 だがしかし、男の子と女の子の二人でご飯を食べるとなると男の子は奢らなければならないのだ。

 それ故泣く泣く主人公はこう言った。



「めぐさん、何食べる? 奢るよ」

「えっ? 悪いよぉ!」



 めぐさんがブリっこのようにそんな感じの言葉を漏らす。だがしかし、主人公は知っているんですよ。1円もお金を払う気がない事くらいは……

 主人公はカツカレー、めぐさんはただのカレー、トンカツは太るからという選択なんだろうが、実際カレーライス単品の方が炭水化物の塊であり太りやすいという事はこの当時ではあまり知られていなかった。肉や油を取ったら太るというそんなイメージの方が強く、かつ当時でもそう思われていたのだ。

 二人で並んでトレーを持って適当な席に座る。二人でカレーを食べながら二年生の思い出につて語った。


 その時にそうか、主人公はもうみんなと違うクラスになるのかと寂しさを真剣に感じるようになっていた。めぐさんの思い出話に関して殆ど記憶にない事だらけだった主人公はただただ頷くだけ、いかに自分があんまり他者に関して興味がなかったんだなとここでは反省をした。



「しかし、このカレー微妙に美味しくないね」

「……うん」



 なんだろう、今のフードコートと言えばチェーン店が入っていたり、もう少しばかり誰が食べても美味いカレーを出す物だが、昔のフードコートは当たりはずれが異常に激しくてここは外れだった。

 鉄みたいな味のするカレールーに無理くりそれを胃に溶かして、主人公はお詫びとばかりにソーダフロートをめぐに献上する。



「ありがとう!」



 あぁ、確かにこりゃ可愛いわと主人公は思った。それ故に主人公は言う。



「あのさ、阪神西宮の改札前にあるカレー屋今度いかない? あそこマジで美味いからさ! 良かったらだけどね。あと阪神梅田のカレー屋も超うまいよ」



 悲しいかな、この阪神西宮のカレー屋さんは長い年月営んできたんだろうが、現在エビスタ西宮やらバスロータリーやらの工事で撤退された。今やどこに行ったのか、看板を下ろしたのかは主人公も分からない。情報求というやつだ!

 この阪神梅田のカレー屋は今だに存在している。らっきょうのかわりに白菜の漬物がサービスでつく、梅田のカレー屋で知らなければもぐりと言ってもいいだろう。ここと似た味がする阪神西宮のカレー屋さん。

 主人公はすかいらーくよりもここが好きだった。

 しかし、よくよく考えると女の子をデートに誘うのがカレー屋だなんて主人公も頭が悪いと思う。されど、めぐの反応はなんとも違った。



「行きたい! そんなに美味しいカレー屋さん行った事ないよ」



 と主人公に事ある毎に媚びるのである。三十分食事を楽しんでからスキー場に戻り、めぐとその友人の女子とスキーを楽しんだ。

 いやね?

 女の子達に挟まれてのるリフトの心地よさ、それはそれは天にも昇る程楽しかったわけなのだが、主人公は友人である青田君の哀しみの中に深い怒りを抱えていた表情を知る由もなかった。当時の中学生は携帯電話を持っている生徒はクラスに一人いるかどうかというレベル、まぁ誰かと連絡を取ろうと思ったら相手の家に電話をしなければならないという何? その罰ゲームみたいな事が通常であった。

 冬休みのある日、主人公はめぐの家に電話をかけた。主人公はめぐが出るか、まぁめぐのお母さんが出るかだと思ってドキドキしていたのだが……



「はい」



 野太い声、間違いなくおっさんである。これがめぐのお母さんである可能性は3パーセントくらいだろうとか思って相手が誰かを伺うと、なんとめぐのパパ、お父さんである。



「君はめぐの何かね?」



 本当に驚くかもしれないが、こう言われたのである。この一文に関しては脚色もなにもない。ドラマとかアニメとかで死ぬほど聞いたあのジェラシー全開のお父さんの一言。



「えっ? クラスメイトですけど」



 根掘り葉掘り主人公の事を聞かれ、その日めぐはいないと電話を切られた。経験者は語るである。スマホが普及しているこの時代に異性の自宅に電話をかける奴はもういないと思うが、女の子の家にかけてお父さんに娘はいないと言われるとほぼ100パーセント嘘であります。それは主人公の経験です!

 何故ならその日の晩、主人公の家にめぐから電話がかかってきたのである。めぐは何度も主人公に謝罪し、次はいつが暇かを聞いてきた。


 主人公はいつも暇だったので、めぐの希望に合わせてそのカレー屋に行く事となる。主人公はファッションセンスがある方ではないのでジーンズに黒いシャツを合わせる所謂中学生のカッコいいだろうスタイルでめぐを待つ。

 何やら主人公の名前を呼ぶ声が聞こえるので振り返るとそこには可愛らしい私服のめぐさんの姿。その日はカレーをお昼ご飯で食べる以外に図書館で勉強しないかという中々ベターなデートコースであった。


 2018年6月現在において、西宮には西宮浜、甲子園、アクタ西宮と3つの図書館がある。但し、主人公が中学生の頃には多分西宮浜の中央図書館しかなかったと思われる。

 中央図書館はマジで広い。そしてエアコンが聞いていて夏はよく勉強がてら涼みに行っていた。今はもうないが簡単な軽食を取るところもあり、小説を書きに行くのも読みにいくのにも重宝した穴場スポットであった。

 勉強部屋を借りると話をすることもできないので、机のある図書館内のテーブルで勉強をする事にした。主人公は頭がいい方ではなかったが、悪い方でもなかった。平均点以上の点数はたたき出す、まぁ進研ゼミを始める前の主人公くらいの点数を取る。

 そして、なんとめぐさん、超絶頭が悪い子だった。



「ほぅ、理科20点……」



 主人公の通う理科のテストは学校で配られている問題集がそのまま出題されるので全部暗記すれば100点を取る事も難しくはない。その理科で点数を稼げないめぐは間違いなく勉強をしない生徒である。

 このめぐの事が好きな青田君はべらぼうに頭がいい。彼に教えてもらえばそこそこの点数は取れるだろうし、いい感じに進むのではないかと思ったが、めぐは生理的に青田君の事を嫌っていた為、それは永久に訪れないのだろう。

 主人公はプランを考えた。英語と数学はめぐにはまだ早すぎる。まずは理科、そして国語からの社会科、それらをクリアしての英語と数学だと……



「今から一時間後に簡単な小テストするから、めぐさんは問題集の5ページの間を何度も勉強しておいて」



 物凄い嫌そうにしたが、頑張って暗記してもらっていた。その間に主人公は問題集をコピー機でコピーして簡単な小テストを作ってみた。それを一時間後にめぐに渡して問題を解かせる。彼女は頭をひねりながら主人公の作った暗記さえしておけば満点取れそうな小テストで50点くらいを取って見せた。

 紛れもない勉強をする才能がない少女である。しかし、彼女は喜ぶ。



「50点取れたよぅ!」

「良かったね! また頑張ろう」



 勉強が嫌いな奴や苦手な奴はやり方が下手で、その効果的な方法を教わる事ができなかっただけなのである。主人公は何故か勉強を教えるのが昔から少し上手かった。やる気も出てもらったところでめぐとカレーを食べに行く事にした。

 昔は阪神西宮の周辺は色んなお店があったものである。確か今の銀行があったあたりにはジャスコがあったりした。

 今や見る影もなく、バスのロータリーと阪神百貨店に変わった西宮駅ではあるが……カレーやというよりは喫茶店に二人で入るとビーフカレーを頼む。


 今や都市伝説であろう、カレールーを淹れる謎の入れ物に入ったカレーと白米のみがよそわれた皿が配膳される。

 二人してそのカレーを食べ舌鼓を打ち、多分つまらない話をしていたんだろう。主人公はこの時本当にめぐに対して恋愛感情を持ってはいなかったのだが、多分……今思うとめぐは主人公の事が好きだったのかもしれない。

 その事に気づかなかったからかは分からないが、主人公とめぐはそれ以降話す事はなくなる。三年生のクラスにめぐはいないし、主人公もめぐに連絡を取ったりする事もなかった。神様という存在が本当にいたのであればまぁまぁ残酷な事をしてくれる奴なのだろう。


 もし、という事はリアルの世界ではタブーなのかもしれないが、主人公の物語はここで終わっていたかもしれないのだ。めぐと付き合って結婚して、そして今に至るみたいなね。

 だが、歴史はそう簡単に主人公を休ませてはくれない。

 おめでとう、主人公は受験生へと進化する事になる。

 それは楽しかった中学生編の最終章。主人公は三年生になってもまだ誰かを好きになる。

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