第4話 君の事が本当に好きでした

 萌美ちゃんと主人公の付き合いは恋人というわけではなかった。お祭りに二人で行ったり、映画に行ったり、主人公が働く漫画。ネットカフェに遊びに来たり、主人公はかなり慎重に彼女との付き合いを楽しんでいた。

 萌美ちゃんはまだ高校生なのでお酒は飲めないのだけが難点であった。主人公は九州の遺伝子を持っているからか、お酒には本当に目がない。

 ありとあらゆるお酒を何でも飲むし好きである。


 ぶっちゃけ、一番好きなビールは麒麟ラガーなのだが……

 最近酒を飲めない人が多く、エールビールの方が人気があるらしい事に少々の哀しみを覚えている事をここで激白する。

 西宮の二号線沿いに昔アサヒビールの工場があったのだが、そこの工場見学に行くとアサヒスーパードライの30分くらい飲み放題があった。

 大学の授業でここに見学に来た時、主人公ガチで飲みまくった。アサヒビールの工場の人がここまでビールを飲んだ人はいないと言われたものである。

 今にして思うと恥ずかしい話だ。


 当時は大量に酒飲める自分カッコいいとか思っていたのだと思う。酒が強いのと量が飲めるのはまた別のベクトルなのである。

 このつまらない物語を読んでいる方で未成年、あるいは酒をようやく飲めるようになった方がいれば心の底からこう伝えたい。

 酒は個々人で楽しみ方が違うので、量を飲む事を誇らず、飲めない事を恥じないでほしい。 酒は飲んでも飲まれるな、というのはお酒を楽しむ事をいつのまにか量を飲む事に変換してはいけない、悪い酒の飲み方は体も、人間関係も壊すんだぜ!


 ソースは主人公だ。

 という事でお酒は萌美ちゃんは飲めないので、もっぱらカフェでケーキなんかを食べるのが彼女と主人公のデートだった。

 バイクを出しても、車を出しても萌美ちゃんは喜んでくれる。

 この萌美ちゃんであるが、サヤちゃん達よりも年上なのに、妙に幼く感じる。なのに、彼女は自分と一緒にいる男が好きな女の子になろうとするタイプの子であった。



「どんな格好の女の子が好き?」

「ん? 似合う恰好であればなんでもいいよ」

「じゃなくて、どんな格好の子が可愛いと思うの?」



 この萌美ちゃんはあざとさを隠し切れない、女の子であった。そんなところも可愛いなと思ったので主人公は答える。



「俺はねぇ、アメリカンカジュアルなファッションをしている女の子が可愛いなって思うよ」



 萌美ちゃんは背が低い、正直、アメカジュは少し身長がある女の子の方が似合う。なのに、彼女はファッション雑誌なんかを買って勉強していたようだった。

 その努力を知ったのは、いつだったか、ららぽーと甲子園が開業してしばらくたったころだったのだけは覚えている。

 このららぽーと、二本で二つしかないキッザニアがあり、正直一度中を覗いでみたいと思う。キッザニアってのは、子供の職業体験ができるアトラクションがあるテーマパーク的なところらしい。アメリカが初らしいが、主人公は中学生編で語ったように、西宮にはトライやるウィークなる丁稚奉公みたいな授業があるのでわざわざ西宮に作らなくても……というか、それがあるから西宮に作ったのだろうか?

 萌美ちゃんは主人公の腕に自分の腕を絡めてから聞く。



「今日の私ってアメカジュかな?」



 テンガロンハットみたいなのをかぶって少し古めのファッションスタイルな萌美ちゃん、全身確か白かったような気がする。

 お世辞にもセンスがあるとは言えない服選びだったが、そんなところも含めて主人公の為に主人公が好きであろう恰好をしてきてくれた事はとても愛らしい。



「どうだろう? でも可愛いよ」



 そして、もう時効だろうから言わせてもらうが、主人公は別にアメリカンカジュアルが好きでもなんでもなかった。ファッション雑誌で流行と書かれており、まぁまぁ誰でも着こなせそうだったので知識の一つとして入れていた。

 ぶっちゃけ、昔も今もジャージファッションとかのラフな女の子の恰好が主人公は好きである。

 この日はどうしたかな、確かショーウィンドウに沢山ケーキが並んでいるカフェに行ってそこで好きなケーキをつつきながらどうでもいい話をしたんだと思う。このショーウィンドウにケーキがそりゃーもうたくさん並んでいるお店だったが、あまり客入りが悪いのか、半年もたたない内にお店が変わってしまったのは悲しいと主人公は思っている。

 本当に、お店の人にこれが食べたいと指さすと、それを切り分けてもってきてくれるのだ。 確か東京の方のお店だったらしく、さすが東京は凄いなと主人公はただただ驚いた。



「萌美ちゃんと一緒におると楽しいわ。なんか、今まで恋愛だなんだって凄い疲れた。多分聴いてるよね? 後輩のサヤちゃんと付き合ってたけど、自然消滅しちゃった」



 これに、萌美ちゃんはとても悲しそうな表情を見せる。それはこの萌美ちゃんがとてもきれいな心をしているからなんだろうと主人公は勝手に思っていた。



「うん、聞いてるよ。なんで別れたの?」



 説明がとても難しいが、彼女の可愛い後輩と別れた主人公は懺悔する責任があるのだろう。付き合い始めてから、彼女とろくに連絡もせず、自然消滅的に終わってしまった事を萌美ちゃんに伝える。

 そう、主人公はこの時点で彼女の本性に気づくべきであった。

 しかし、それを聞いた萌美ちゃんは主人公にこう言った。



「君は悪くないと思う。あの子も言いたい事があれば連絡すべきだったんだよっ! だから、もう気にしないで!」



 主人公はまさか肯定してくれるなんて思わなかった。

 本当にうれしかった。主人公は自責の念に潰されそうだったのだ。サヤちゃんを傷つけてしまった事、もう戻らない人間関係、それら全ては主人公に責任がある。

 そして、まぁ今でも思うが実際主人公に問題があるのだ。これはどんな言い訳をしても覆らない事実。

 されど、萌美ちゃんの甘い言葉に主人公は乗ってしまった。



「そうかな? そう言ってくれると救われる」



 萌美ちゃんは主人公の頭を撫でる。

 今思えば、年下のクソガキになにしてもらって慰めてもらっているんだと、過去に戻れるなら顎を砕いてやるものの、主人公は萌美ちゃんの事を女の子として好きになってしまっていた。 そして、大学三年生の年始、萌美ちゃんと主人公は一緒に初詣に行く、そこでまぁ主人公が当時使っていたルイヴィトンの財布を萌美ちゃんに差し上げる。十万くらいしたのかもしれないが、当時スロットで馬鹿勝ちしていた主人公には大した金額には感じなかった。


 今は100円ですら大金である。

 その財布を差し上げた事で萌美ちゃんが大層喜んでくれた事に主人公は満足して西宮戎神社に参拝をする。屋台を楽しみながら萌美ちゃんと確か少し長いキスをしたんだと思う。

 それがソース味だったあ? 甘酸っぱい林檎飴の味だったかは読者の想像にお任せしたいところであるが……


 この西宮戎神社というと、日本全国でもとても有名なイベントがある。1月9日から11日までの三日間、十日えびすというお祭りがあり、10日の日にはあの副男レースが行われている。よく大阪の今宮戎と間違える人がいるが、西宮戎なので、参加したいと思っている方はお間違いなく。

 色んな地域からくるから抽選方式になってしまった事が悔やまれる。昔はコスプレとかしてゆっくり参拝する人たちもいたんだけどね。


 西宮の消防署がスクラムを組み、参加者を妨害した事件が日本全国を駆け巡ったけれど、何故か毎回抽選をクリアする西宮消防署の闇は相当に深い。

 この西宮戎神社の目の前に『ひるね』という超有名な中華料理屋があり、看板の文字がひるねと横に寝ている。

 これは夜から早朝にかけて開いているお店だったので、お昼は開いてない。なので、ひるねだったのだが、今はお昼もランチで営業していてそのありがたみはない。


 というか、今は深夜もコンビニやらが開いているので『ひるね』としての必要性はなくなったのかもしれないが……

 話は脱線したが、その十日えびすに主人公は萌美と行く約束をしたのである。初詣の時と十日えびすでは出店が微妙に違うので、楽しめる。

 西宮はお祭りが少ない市なので、この初詣と十日えびすだけは主人公皆勤賞なのだ。

 二人でお参りして、そう! この十日えびす、巨大な本マグロがお供え物としてあるのだ。それに硬貨を張り付けるのが伝統。


 萌美と、ずっと一緒にいられますようにとかお祈りしようと主人公は思っていた。おみくじを引いて結んで、甘酒を飲んでと……

 これは事実を元に脚色した物語だが、今から書く部分は本当にそのままをお送りしたい。

 その十日えびすの日の前日を最後に主人公と萌美との連絡は途絶える。

 何かあったのかとか? 主人公が何か気に障る事を言ったか? とかいろいろ送ったが、返答はない。これがラインなら既読がついたかどうかくらいは分かったかもしれないが、当時のメールにその機能はない。

 主人公は、今でも心から思う。無事で元気でいてくれればそれでいい。主人公は怒ってないし、いまだに心配していると……

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