12話 粒子ドライバー・トロン Cパート

 青に亀裂きれつが入っている。トロンが力を失った。

 変身へんしん解除かいじょされ、姿をあらわす少年。ジュンヤがひざをつく。

 すこし遅れて、ゲミオンが光となって散った。

 生身をさらした細身の男性が、鼻を鳴らす。腰の白い装置は、ひび割れている。スーツ姿のエイスケがふらつき、仰向けに倒れた。

 廃工場はいこうじょうの中が、静けさに包まれる。

 静寂せいじゃくを破ってひびく、高い足音。立ち上がろうとする少年に、手が差し出された。スーツから伸びる、すらりとした女性の手。

 ツバキの手を取り、ジュンヤが立ち上がる。

 顔をゆがめるエイスケとは対照的に、ジュンヤは笑顔。

 アキラがジュンヤに近づいて、さわやかに微笑む。

「シグスチップをもう一つ使うことには、ならなかったか」

「アキラ? 冗談だよね?」

「エイスケがチップを使用するなら、切り札として使うつもりだった。トロンかいを」

 口をとがらせた少年。つぎに、ほおを引きつらせる。

「それを言ってくれたら、トロンのベルトを壊さなくてすんだのに」

「切り札があるという慢心は、思わぬところで足元をすくわれかねない」

 ジュンヤは何も言わなかった。

「なるほど。完敗だな。やっぱ、お前は……」

 エイスケは、言葉を最後まで言わなかった。気を失う。すべてが終わったことを、壁に体重を預けたサブロウが把握した。

 心配したフワから電話がかかってくる。途中で、みんなにも聞こえるように音量を上げた。

「ドライバーライトキックで決着だ」

『おにいちゃんは、もうちょっと、センスをどうにかしたほうがいいよね』

 大音量で、データに変換された声が響いた。ジュンヤが笑い声をあげる。

 通話が終わり、アキラが壊れたギアを両手に持った。赤と白。

「これは取り戻した。あとは、おれの仕事じゃない」

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