4話 新たな力 Bパート

 頑丈そうな広い部屋で、少年が変身へんしんした。

 光が消え、黒い肌着の上から防具をまとったような姿となって現れる、ソーグ。筋肉の発達した成人男性にしか見えない。甲冑かっちゅうはごついため、落ち着いた赤色が印象に残る。

「ツウワカノウ」

『許可』

 銀色のベルトが発した音声に答え、ジュンヤとは違う声が返事をした。変身すると、声が変わる仕組みになっている。

『データを取っているあいだはひまだろう。質問があれば、言っても構わない』

 エイスケの声が通信から響く。データに変換されているため、元の声色とはすこし違う。

『余裕、ないかも。ソーグ、使用開始しようかいし!』

「ノウリョク、シヨウカノウ」

 ソーグの力が使えるようになったことを、ベルトが伝えた。よろいが変化し、腕や脚などの関節を動かしやすい形状になる。

『まずは、風船を割ってくれ。全力で』

 白い床の一部が開いて、青い風船が出てきた。下に伸びるひもで結ばれているだけ。

『はい』

 ファイナルアーツを使うまでもなく、普通に殴った。パン! という音がして、風船が割れる。すこし離れた場所に、別の風船が現れた。飛び蹴りがそれを捉える。

 ジュンヤは、怪人かいじんと戦っているつもりで力をぶつけた。手を抜かない。

『なぜ炭素たんそを使っているのか。知りたくないかな?』

『え? いや。いま?』

『結合の状態によって非常に頑丈がんじょうになる。にもかかわらず、多く存在する。生物の――』

 どうやら、エイスケは暇を持て余しているらしい。ひたすら的を狙っているジュンヤの頭には、内容が入ってこなかった。

 適度に休憩をはさみ、広い部屋の中で、ソーグが炭素化合物たんそかごうぶつに攻撃をつづける。


「こんなものかな。どう思う? 宇井峰ういみねさん」

「そう言われましても。私には、専門知識がありませんから」

「彼は、満足してくれるかな」

 広い部屋で戦うソーグの映像を見ながら、エイスケが表情を緩めた。


 床が動かなくなって、赤い鎧が動きを止めた。

随分ずいぶん、動きがよくなった。ここまでにしよう』

 通信を受けて、ソーグの中の人が大きく息をはく。

『はい。解除かいじょ

 たくましい肉体が光に包まれて、変身へんしんが解けた。少年が姿を現す。その目は輝いていて、表情は明るい。

「次は負けない!」

 ジュンヤが決意を述べた。

 白い壁の一部が動いて、ドアが姿を現す。両側から割れるように開いた。エイスケとツバキの姿を見て、少年が駆け寄る。

 スーツ姿でも細身だと分かる男が、何かのチップを取り出した。

「協力のおかげで、完成した。デトンの力を宿やどしたチップだ」

 データ化されていない、エイスケ本来の声。ジュンヤは、久しぶりに聞いたような感覚を覚えた。

「新しい力? 武器とかじゃなくて?」

「ジュンヤくんになら、できる」

 両手を胸の前で握りしめたツバキが、身体からだを揺らした。

 二人のやり取りを見守ったエイスケから、デトンチップがジュンヤに手渡された。すぐに説明を始める。しばらく続いた。

ようするに、セットしたらもう外さなくていい。早速さっそく、試そう」

 そのとき、エイスケのポケットから、警報のような音がひびいた。ジュンヤがすぐに反応する。

「なに?」

怪人かいじんが出現した」

 取り出したスマートフォンの画面を見て、男性がつぶやいた。あまり感情がこもっていない。

 怪人かいじんが現れた場所は、株式会社かぶしきがいしゃテンペンが所有する工場のうちの一つだった。

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