4話 新たな力 Cパート

 気合いを入れる少年。ソーグのベルトに、小さな手が伸びる。

 デトンチップがはめ込まれ、変身後へんしんごに使用可能となった。スイッチを押す。

「ソーグ、ジュンビカンリョウ」

変身へんしん!」

 床に積まれたシャープペンシルの芯が光って、少年の身体を包んでいく。そして、変身へんしんを終えた赤いヒーローは、勢いよく走り出さなかった。髪の長い女性につづいて建物から出て、銀色の自動車へと乗り込んだ。

「次は、何色がいいだろうか」

 部屋の中でソーグから送られる映像を見ながら、エイスケがぼそっと息をもらした。ソーグの装甲が変化する。力が使用可能になったことを、別の画面が伝えた。


 開け放たれた扉から、工場の中に入るソーグ。

 破壊されている所は見えない。何に使うのか分からない、たくさんの装置がずらりと並んでいる。その中に、くつろいだ様子の黒い怪人かいじんが自然に混じっていた。

『外に出ろ!』

 赤いヒーローが叫んだ。すると、物陰から黒い怪人かいじんがもう1体出てきた。

 辺りを気にするソーグとは違って、ペジ・タイプピーとペジ・タイプダブリューは落ち着いた様子。暴れることもなく、工場の外に出た。

 高い位置からすこし傾き始めた太陽。もうすぐ暑さがおさまる季節とはいえ、まだ熱中症には注意が必要。鎧姿の赤い大男と同じくらいの黒い怪人かいじんも、さらに大きな黒い怪人かいじんも、暑さを気にしている様子はない。

 ツバキは、冷房を効かせた自動車の中にいた。送られてくる映像を見ている。

 エイスケは、遠く離れた建物の一室にいた。同じく、ソーグが対峙する相手を見ている。好機を待っていたかのように、怪人かいじん2体がほぼ同時に構えるさまを。

 ジュンヤが、ここで戦うしかないことを悟る。

採石場さいせきじょうまで移動するのは、ムリか)

 胸の前で両腕を重ねたソーグが、能力の使用を宣言する。

『デトンシフト!』

 赤色がかがやいて、黄色へと変わった。腕に、短いトンファーのような武器がついている。

 中の人は、装甲に規則正しくヒビが入ったことを心配した。パズルピースの意味を、まだ知らない。

 動きが硬くなった怪人かいじんめがけて、黄色いヒーローが仕掛けた。そして、攻撃しない。大きな相手のパンチを右手で受け止めて、そのまま左手でパンチを叩き込んだ。

(流れる水のような力)

 ジュンヤが、冷静に相手の動きを見極める。キックの力を手で受け、お返しのキックに乗せて反撃する。

 ファイナルアーツを使わずに、ペジ・タイプダブリューを吹き飛ばした。

 もう1体の怪人かいじんは、襲ってこない。

(バラバラにこられると、まずい。時間切れになる)

 デトンシフトは、使用時間が限られている。活動限界を迎えるかファイナルアーツを使用すると、しばらくは使えなくなってしまう。

『ここで、倒すんだ!』

 デトンが叫んだ。すぐに通信が入る。

『その必要はない。デトンシフトの性能は確認できた。あとはデータを改良するだけだ』

 言葉の意味を考えているあいだに、2体の怪人かいじんが逃げ出していた。追いかけようとして、制限時間が残りすくないことに気づく。ヒーローが腕を下ろした。

 黄色い大男が赤色に戻る様子を、遠くから男性が眺めていた。こげ茶色のロングコート姿で、顔はかげになっていて見えない。

 小鳥が飛び立ったあと、そこに姿はなかった。

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