1話 変身 Bパート

 ジュンヤの、あまり長くないかみがなびく。

 風を切って歩く少年は、いつのまにか速度そくどを上げていた。嬉しそうな顔だけではなく、腕や脚でも風を感じて。お腹にはきらりと光るものが。ソーグのベルトを装着そうちゃくしている。

「キャー!」

 左に見える大きな川の流れには、盛り上がった堤防ていぼうが道となってう。そこを歩くジュンヤの耳に、叫び声が届いた。甲高かんだか悲鳴ひめいのような。

「ウソだろ?」

 緑の河川敷かせんしきで、髪の長い女性が逃げていた。追いかけているのは、黒い怪人かいじんに見える。

「ラッキー!」

 これは撮影さつえいに違いない。思いを口に出したジュンヤは、すぐ断定だんていした。次々に思考しこうめぐる。悪いことがあってもまた良いことがあるっていうのは、こういうことなんだな。予告に出てきた怪人かいじんと同じに見えるし、このベルトも本物ほんものみたいだし。

 ジュンヤの読みでは、そろそろソーグの出番でばん。辺りを見回す。カメラがない。

「このままじゃ、あの人が」

 考えは、すでに変わっていた。近くの木へと走る。小学6年生の身体からだはあっさりとみきに隠れ、川表かわおもての低い位置から見えなくなった。

「いま起きなくて、いつ奇跡きせきが起きるんだ!」

 小さな手が、銀色のベルトにびる。スイッチを押した。

「ソーグ、ジュンビカンリョウ」

 機械的きかいてきな音声が聞こえた。かまうことなく、ジュンヤは身体からだを動かしつづける。真剣しんけんな表情で、予告で見た動きのままに。

変身へんしん!」


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