7話 答えを求めて Bパート

 10月になって最初の休日。

 同じクラスのノゾムが好きな番組まで観終みおわった。いつもより落ち着いているジュンヤが、TVの電源を切る。

「どうすればいいんだ。上?」

 銀色の装置を取り出し、画面に触れた。マークが2つある。1つはジュンヤの家。ポケットにソーグのベルトを突っ込んで、少年が部屋から飛び出した。もう1つの場所を目指して。

 家を出て、地図を確認。ふたたびポケットにしまう。その場所は、家から遠くではなかった。

「何かが分かるはずだ」

 思路川しろがわに架かる手形橋てがたばしを渡って、南へ。古い橋のため、自動車は通っていない。新しくできた橋のほうは混雑している。

 おもちゃ屋へ歩くのと同じくらいの時間で、目的地に到着した。

 株式会社かぶしきがいしゃテンペンの本店。鉄筋コンクリート造りで10階建て。

 あらかじめ面会の予約をしておかなければ入れないことを、少年は知らない。堂々と正面から向かって、警備員の男性に止められた。

「離して。離してください」

「ダメだよ。勝手に入っちゃ」

 取り押さえられたジュンヤの後ろで、黒塗りの自動車が止まった。ドアが開き、スーツ姿の年配の男性が降りてくる。警備員を手で制した。

「どうしても、社長に会わないといけないんだ!」

「会って、どうするんだい?」

「なんで変身へんしんできるのか。それを、確かめないといけないんだ」

 少年は、話している相手が誰なのかを知らない。

「ほう。それは興味があるな。話してくれるか?」

「そこの少年。時間が限られているので、手短てみじかに頼むよ」

 黒いスーツに身を包んだ、メガネの人物が言った。

 三人が入り口から中へ。会う人から次々にお辞儀じぎをされた。戸惑うのはジュンヤだけ。エレベーターに乗って、上へと向かう。

 代表取締役だいひょうとりしまりやくと書かれた部屋のドアが開けられ、中に入った。


 鵜川うかわケンゾウは、変人である。

 年配の男性が、立派な木の机のむこう側へと歩く。立派な革の椅子に座った。テンペンの代表取締役だいひょうとりしまりやく。いわゆる社長であることが、秘書から少年に告げられた。

「ジュンヤです。ソーグのベルトって、なんなんですか? 敵が同じ姿をしてるのは?」

 銀色の装置を持ったジュンヤは、机の前に立っていた。

「力は、使う人の気持ちで、どちらにも転がる」

「番組のことじゃなくて。オレ、本当に変身へんしんできて。それで……なんて言ったらいいかな」

 高級そうな机を材料にして変身へんしんするわけにはいかない。少年は、シャープペンシルの芯を持ってこなかったことを悔やんだ。大量に持ち運べるはずもないことを忘れて。

「ジュンヤくん。きみは、どうしたいんだい?」

「これは、誰かを守るための力なんだ。だから――」

「ベルトも大切だが、いまの気持ちを大事にしてくれよ」

 年配の男性は、目に強い光を宿している。すこし下がった目尻めじりと口元に、シワが刻まれた。

 コンコン。部屋のドアを叩く音が響く。

「すまない、少年。時間だ。あとは彼が案内してくれる」

 秘書のマサヨシの言葉で、ジュンヤはドアへと向かった。部屋から出る前に、二人にお辞儀じぎをする。ドアが開き、そして閉まった。

 建物から出た少年が、警備員に頭を下げた。

(あの人が命令しているなら、すぐにベルトを取り上げるはず)

 ジュンヤは、言いようのない不安感を覚えていた。

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