「やっぱり、おかしい」

　シートベルトを装着（そうちゃく）した少年が、運転手（うんてんしゅ）に話しかけた。

「どうかした？　ジュンヤくん」

　ツバキは、長い髪（かみ）をうしろで結（むす）んでいる。服は白い。シートベルトが押さえているのは、いつものスーツではなく空手着（からてぎ）。見る者に妙（みょう）な違和感（いわかん）を与（あた）える。

「黒い怪人（かいじん）が、いっぱい出てこない」

「え？　えーっと。私（わたし）に言われても」

　表情（ひょうじょう）を曇（くも）らせたツバキ。苦笑（にがわら）いをするばかり。

「幹部（かんぶ）の鳥怪人（とりかいじん）は？」

「雷古院（らいこいん）さんに聞いて」

　歯切（はぎ）れの悪（わる）い女性が黙（だま）ってしまった。少年が身体（からだ）を動かし、柔（やわら）らかそうな服がごそごそと音を立てた。スマートフォンのような装置（そうち）をいじり、通話（つうわ）を開始（かいし）する。

『全部（ぜんぶ）、上からの指示（しじ）さ。知っていることは少ない』

　エイスケが言った。ジュンヤの眉（まゆ）に力が入る。まだ、少年は質問（しつもん）していない。

「あの黒いやつは、なんなんだよ」

『謎（なぞ）の組織（そしき）が何を企（たくら）んでいるか分からない。慎重（しんちょう）に行動（こうどう）したまえ』

　ジュンヤは、ペジ・タイプジーを思い出していた。黒いソーグのような姿（すがた）を。チップを使って灰色に変わったことを。シグスの力を。

　メタリックな灰色の自動車（じどうしゃ）が止まった。二人が降（お）りる。

　建物（たてもの）の中。白い大きなドアが開く。

　ひろい部屋（へや）の中で、ソーグに変身（へんしん）するジュンヤ。

　空手着（からてぎ）のツバキが構（かま）えた。同じように動くべく、真似（まね）するソーグ。なかなか、うまくいかない。白と赤が身体（からだ）を動かす。

　怪人（かいじん）に対抗（たいこう）するための特訓（とっくん）がつづく。

　べつの部屋（へや）で、エイスケは暇（ひま）そうにしていた。解説（かいせつ）することがないためだ。

　二人が礼を言った。変身（へんしん）が解除（かいじょ）される。

　ジュンヤが、建物（たてもの）の外に出た。夕暮（ゆうぐ）れにはまだ早い。少年の表情（ひょうじょう）は晴（は）れないまま、その場をあとにした。

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