6話 力の謎 Aパート

 ペジ・タイプジーとの戦いから、一週間後。

 日曜日。朝の子供向け番組を見終わったばかりのジュンヤが、ギアロード・ソーグのテーマ曲を聞いた。音は机の上から。銀色のスマートフォンのような装置から、鳴り響いていた。

 画面には“通話可能”の文字。ちかくの“許可”と書いてある部分を指で触れる。

「はい。ジュンヤです」

『ツバキよ。今から、いいかな?』

 機械によってデータへと変換された女性の声は、落ち着いている。少年は、怪人かいじんが現れたわけではないことを察した。

「いいけど。どこにいけば?」

『悪いけど、地図を見て来てね』

 プツリという音がして、声が聞こえなくなった。ソーグのベルトを見ながら、少年がつぶやく。

「地図? ああ。ここは、デトンのときの」

 画面に表示された地図。その見かたにすっかり慣れたジュンヤは、もう画面を見ていない。ポケットにベルトを入れて、部屋のドアを開けた。

 柔らかそうな服に身を包み、家の外へと出る少年。

 もうすぐ10月。街を行き交う人たちは、じょじょに厚着へと変わりつつある。


「一緒に頑張ろうね。ジュンヤくん」

 いつもはスーツ姿の女性が、柔道着のような白い格好で現れた。胸の前で両手を握りしめている。薄化粧の顔に迫力はない。長い黒髪は、うしろで一つにまとめていた。

「なにを? 体力づくり?」

 一歩引いた少年の笑顔は、引きつっていた。広くて頑丈な白い部屋に、助けを求められる人はいない。

「まずは、変身へんしんしてね」

「え? 変身へんしん?」

「そう。怪人対策かいじんたいさくよ」

 わけがわからない。でも、怪人かいじんに負けるわけにはいかない。あいつよりも、強くならないといけないんだ。

 眉に力を入れたジュンヤが、ソーグのベルトを取り出した。デトンチップはセットされていない。黒いものが積んである場所に向かって歩く。

 立ち止まり、ベルトを腰に装着。スイッチを押すと、機械的な声が響いた。

「ソーグ、ジュンビカンリョウ」

変身へんしん!」

 キレのある動きでポーズを決めた。

 床の炭素素材とともに、少年の身体が光に包まれる。

 別のシルエットへと変わり、光が消えた。大きな黄色い目のように見えるのは、視覚センサー。

 成人男性のような姿の、赤い防具をまとったソーグ。その銀色のベルトが、何かを告げる。

「ツウワカノウ」

『許可』

 さわやかな声が答えた。正体を隠すために、少年とは違うものへと変化している。

『ペジ・タイプジーは、強い相互作用そうごさよう媒介ばいかいする。使う技は8』

 通信で男性が言った。言葉の前半は、ジュンヤには理解不能。

 自称、テンペン企画部のおさ雷古院らいこいんエイスケ。ツバキの上司で、偉い人らしい。少年にはどうでもよかった。

『8の技をなんとかできれば、倒せるってこと?』

『デトンシフトは、強い相互作用そうごさようをしない。流れる水のような力だ。攻撃さえ読めれば、対処たいしょ容易たやすい』

『それで、どうやって対処を?』

『そのために、宇井峰ういみねがいる』

『技を知ってる、ってこと?』

「よろしくお願いします!」

 突然、ツバキから覇気がみなぎった。一瞬、ソーグの力を使おうと思ったジュンヤが踏みとどまる。力を解放しなければ、変身しても普通の人と変わりはない。

『よろしくおねがいします』

 赤い大男は、小声で頼んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る