6話 力の謎 Bパート

 ツバキの技が、ソーグを襲う。

 黒い怪人かいじんが使ったチョップと似た構え。だが、手は握られている。ひじ関節を利用した腕での攻撃。腕刀打わんとううちだ。

 ソーグの中の人が、きっちりと腕の防具で受ける。威力はない。寸止めされていた。

 すこし離れたツバキは、うしろを向いている。左足を軸にして持ち上げられる、右脚。足の裏を見せるように蹴りを放った。うしりだ。

 ソーグは、攻撃の位置に腕を合わせていた。やはり、本気で蹴られることはない。

 ふたたび離れた位置に立つ、ツバキ。左のひざを抱え込むような低い体勢になった。外側から右足を回し、振る。下段回げだんまわりだ。

 赤い大男は、すでにその場から一歩引いていた。ツバキの動きが止まり、立ち上がる。

「ありがとうございました!」

『ありがとう、ございました』

 相手につられて、筋肉ダルマが礼をする。清々すがすがしい表情の女性からは、もう闘気が感じられない。

「続きは、お昼ご飯のあとね」

「まだやるのぉ?」

 変身へんしん解除かいじょした少年が、露骨ろこつに顔をゆがめた。

「受けられるようになってきたから、次は技を使えるようにならないと。ねっ」

 美人のおねえさんが微笑んでも、少年は笑顔を見せない。白い空手着をまとった女性が、タオルで汗をぬぐう。

 ツバキとジュンヤが話していると、広い部屋のドアが開いた。スーツ姿の男性がやってくる。

効率こうりつの改善により、デトンシフトの時間が倍に伸びた。セットしたまえ」

「やったぜ!」

 エイスケが七三分けの髪に触れている。あえて、すこし乱した。デトンチップを受け取った少年は、それを見ていない。

 今日一番の笑顔を見せたジュンヤに、ツバキも満面の笑みを向けた。


 ジュンヤが、家族で昼食を済ませた。

 のんびりとくつろいだあとで、歯磨きを終えた少年。ふたたび家を出て、技の特訓をするための建物へと向かう。

「あ。ツバキさんに敵の動きが分かったのは、あれか」

 思わず声に出して、慌てて口を閉じる。街を歩く人がまばらとはいえ、誰に聞かれているか分からない。ソーグであることは、知られてはいけない。

 ツバキに怪人かいじんの攻撃を予測できた理由。ジュンヤは、それを納得していた。

 午後の特訓とっくんは始まらなかった。怪人かいじんが現れたのだ。

 メタリックな灰色の自動車から降りる、赤い鎧の大男。ジュンヤはすでに変身へんしんして、力も開放している。砂利を踏みしめ、かわいた風が舞う。

 採石場さいせきじょうにふたたび現れた、異質な怪人かいじん。ペジ・タイプジーのもとに、ソーグが歩いていく。

 同じような姿をした黒い強敵を前に、ジュンヤが気合いを入れた。対峙たいじする赤と黒。

 怪人かいじんが、腰に手をのばす。手には何かのチップ。黒い装置にはめ込まれた。それはまるで。

(デトン?)

 口に出さなかったジュンヤは、相手から目が離せない。

『シグスエフェクト』

 声が響いた。加工されている。黒い怪人かいじんが喋ったのか、ベルトの音声なのか分からない。口が見えないから。ベルト?

 ソーグの中の人は、あることに気づいた。しかし、深く考える時間はない。

 光に包まれた黒い怪人かいじんが、灰色へと変貌へんぼうした。光が消える。装甲がよく見えるようになり、いくつもの大きなパーツに別れている様子が分かる。

『シグス?』

 黒い怪人かいじんが、灰色へと姿を変えた。まるで変身へんしんヒーローのように。

 回答などありはしない。似ていることを考えている場合ではない。ジュンヤが悟った。胸の前で両腕を組むソーグ。

『デトンシフト!』

 赤いヒーローが、その姿を変えた。黄色いデトンへと。灰色と黄色が交差する。

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