10話 ギアは青と、白 Bパート

 風を切る、側車付二輪自動車そくしゃつきにりんじどうしゃ

「発信器に気づかれてたら、どうする?」

 サイドカーの側車に乗っているジュンヤが聞いた。アキラとお揃いのロングコート姿で、ヘルメットをかぶっている。

「その場合でも、居場所の見当はついている」

 アキラもヘルメットをかぶっている。ステアリングを握る手には、手袋をしていた。炭素繊維製。力を込めて、アクセルを開ける。

 日は傾ききっていない。黄昏時たそがれどきには、まだ早い。

「エイスケの論文を読んだことがある。ギアの改良も簡単にこなすはずだ」

「よくわからないことを言う、って印象しかないな」

「あいつなら、一からギアを作ることもできるかもしれない」

 思路川しろがわぞいの道に、見知った顔。少年たちがすれ違った。

 ゆっくりと振り返るノゾム。遠ざかっていくサイドカーを見ながらつぶやく。

「新しいおもちゃでも、買いに行くのかな?」

 街の景色が流れるようにすべっていく。安全運転に安心しているジュンヤは、部屋で聞けなかった疑問をぶつける。

変身へんしんに使った材料って、どうなるんだ?」

「ああ。ひもの応用で、炭素たんそを別の場所に送る。再利用できるからな」

「そういうことは黙ってやがったな、あいつ」

 ジュンヤは、アキラの口調をすこし真似た。

 アキラによると、エイスケは過激な論文で話題になったことがあるらしい。本人は冗談だと言って、そのあとは特に目立った行動をしていない。

「過激って?」

炭素生物たんそせいぶつのデータ化に関する――」

炭素たんそ?」

「つまり、生き物を全部ロボットにするっていう考えだ」

「とんでもないやつじゃねーか!」

 少年は憤慨ふんがいした。

「技術的に実現はできないから、冗談で通る話。だったんだが」

 それとは別に、何年か前、激情するさまを見ているという。たまたま意見が違って、ぐうぜんアキラのほうが正しかった。ただそれだけ。特別なことではないと断定した。

 アキラには、自分の才能に嫉妬しっとされたという発想がなかった。

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