5話 強敵 Aパート

 またも、テンペンが狙われた。

 休日の昼下がり。機山きやまと書かれた場所に、赤いヒーローが到着した。

 すでにソーグの力を解放済み。装甲が変形していて、関節を動かしやすい。踏みしめられる、ふぞろいな砂利。ほこりが舞って、黒い怪人かいじんが姿を見せた。1体。

 採石場さいせきじょうに風が吹く。これまでとは姿が違う。

『なんだ、こいつ』

 ソーグの変身者へんしんしゃは、思わず声を出した。正体を隠すため、別人の声色に変化している。

 顔がマスクで隠れていて、生身はどこも露出していない。さらに、動作補助の繊維せんいはまるで筋肉。黒い服の上から赤い防具をまとった成人男性、にしか見えない。元が少年だと知る人物は限られていた。

(なんなんだ。どうなってるんだ。これは)

 すこし離れた場所で光を反射する、2個の大きな視覚センサー。黒い。防具も似ていた。

 立っているのは、ソーグと似た姿の黒い怪人かいじん

『ペジ・タイプジー。やつめ。もう投入するのか』

 通信が届く。ジュンヤの質問に答えが告げられた。ソーグを支援するための組織、コロンから。少年にとってエイスケとは“よく分からないことを言う偉い人”という認識しかない。

(名前じゃなくて、姿のこと、なんだけどな)

 戦いながら話すという器用な真似はムリだ。ジュンヤは切り替えた。相手との距離をちぢめながら、目の前に集中する。

 黒い怪人かいじんが一気に間合いを詰めた。右の手のひらを見せ、赤い大男の腹を狙う。

『速い』

 なんとか、腕で防いだソーグ。それが掌底突しょうていづきという名前だと、中の人は知らない。

 一歩引いた黒い怪人かいじんは、すでに次の攻撃を構えている。ふたたび踏み込んだ。右手を左肩の近く、顔の横から振って、チョップを繰り出した。

 かろうじて、右腕の赤い装甲で防御。技が分からないため、少年には攻撃が読めない。

内手刀打うちしゅとううちよ。気を付けて』

 女性の声。ツバキからの通信。意味は分かっても、ジュンヤにはどうすればいいのか分からなかった。

『デトンシフト!』

 赤いヒーローは、切り札を使った。全身が光り、装甲が黄色に変わる。光が消えたあと、大きなパズルピースが合わさっているように亀裂が入ったのは、衝撃しょうげきを吸収するため。腕にみじかい棒状の武器が現れた。

 異質な怪人かいじんと戦うデトン。

 ペジ・タイプジーが前蹴まえげりを構えた。

 黄色くなったヒーローには、どんな攻撃がくるのか分からない。相手の動きを待った。

 蹴らずに、腰をひねる黒い怪人。別の構えを見せた。両手で突いて、すぐ、どちらの手も引っ込める。双手突もろてづきによる牽制けんせいだ。

『足!』

 通信に反応し、かろうじて横蹴よこげりをつかんだデトン。同じように蹴りを放ったときには、手から相手の足が離れていた。紙一重でくうを切る。

 身体を半回転させたジュンヤは、黄色い建設機械のかげに目を奪われた。小柄な人影がある。

(子供? こんなところに? 巻き込まれたらヤバイ)

 似ていような気がする。フワに。見間違いだと結論付けたジュンヤ。それでも。

 次の行動は、すでに決まっていた。

『フワコ? なに、やってるんだっ! 早く逃げろぉ!』

 大声で叫ぶ、デトン。そして、さわやかな声が小さくつぶやく。

『ファイナルアーツ』

 黄色い腕から伸びるトンファー状の武器に、エネルギーが満ちていく。さらに左へ身体を回転させ、強敵を見据えた。踏み込む。黒い怪人かいじんは、建設機械のほうに少しだけ首がかたむいていた。

 殴りかかるようにして振るわれる、棒状の武器。ギアロードバッシュが炸裂さくれつ

(手に当たっただけか)

 少年は焦っていた。ファイナルアーツを使うと、デトンシフトが解除かいじょされてしまう。倒しきれなかったことを悔やんだ。

 黒い怪人かいじんが、大きく横に跳んだ。建設機械とは反対の方向。そのまま派手なジャンプを繰り返す。

 赤色に戻ったヒーローは、追わなかった。立ち尽くしたまま。

 子供の姿は、いつの間にか消えていた。

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