2話 ベルトの所有者 Bパート

 立ち上がる赤いヒーロー。

 画面いっぱいに現れる文字。

 ギアロード・ソーグ。

 文字が消えて、いろいろな登場人物たちが、違う背景で次々に現れる。

 ソーグが構えた。

 黒いシルエットで何人かが登場する。

 まだ見ぬ敵や、別の形態けいたいは隠されているらしい。

 オープニングが終わった。

 この番組は、夢と冒険は世界を変えるTENPENがお送りします。


 夏休みが終わり、学校が始まった。

 いつもなら浮かない顔をしているはずの少年は、嬉しい気持ちを隠せない。

 堅そうな白い建物に入る。下駄箱げたばこで上履きに履き替えた。階段を上る。

 6のAに到着。30ある生徒の席が、ほとんど埋まっている。教室に着いて、すぐに叫びたかった。

(オレ、変身へんしんできるんだぜ!)

 心の中で雄叫おたけびを上げたジュンヤが、ツバキの言葉を思い出す。


「ベルトで本当に変身へんしんできるって、言っちゃダメだからね」

「なんで?」

「ジュンヤくんだけじゃなくて、周りの人も怪人かいじんに狙われるから」


「おはよう。ジュン」

「ん? ああ。ゾム。おはよう」

 右隣の席から挨拶あいさつをしたのは、同じクラスの男子。ノゾムという名前で、なぜかゾムというあだ名がついている。

 ジュンヤがジュンと呼ばれている理由も分からない。少年たちはきっかけを忘れていた。

「どうかした? 宿題を忘れたとか?」

「いや。なんでもない。それより、ついに始まったな。ギアロード・ソーグ」

 ジュンヤが言っているのは、TV番組のこと。1話が放送されて、男子たちのあいだでは話題の中心になっている。

「ふーん」

 左隣の席から、気の抜けた声が聞こえた。

「どうした、フワコ。見ただろ? ソーグ」

「興味ない。その前の番組なら知ってるけど」

 ふんわりとしたショートボブを揺らした女子は、フワ。どういうわけかフワコと呼ばれている。さっきまで開いていた目を半開きにして、話を聞いているのかどうか分からない。

「ぼくとしては、ソーグのあとの番組のほうが楽しいけど」

「そうか? まあ、悪くないとは思うぜ」

 日曜の朝には、子供向け番組が連続で放送されている。さらに、いくつかのTV局で競い合うように番組をぶつけているため、裏番組を録画する人もすくなくない。

「ナルミ先生、おはよう」

 何人かの女子が挨拶をして、おさげの女性が笑顔で挨拶を返す。

 騒がしい教室を見渡す先生。

 こうして、学校では誰にも正体を明かすことなく、怪人かいじんとの戦いの日々が始まろうとしていた。

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