8話 怪人の正体 Aパート

 休みの日。例の黒い怪人かいじんが現れた。

 いつもの採石場さいせきじょうへと向かう、赤い防具をまとった人物。歩きながらつぶやく。

『ソーグ、使用開始しようかいし

「ノウリョク、シヨウカノウ」

 銀色のベルトが答えた。落ち着いた赤色が姿を変えて、肌着のような黒い部分の動きを妨げなくなる。すこしだけ斜めから照らす日の光が、反射された。

 2つの、黄色い大きな視覚センサーが輝く。マスクは頭全体をおおっていて、中身が子供だとは分からない。

 身体のどこも、外からは見えない。身体能力を上げるための仕組みがあるため、成人男性のような見た目。声も変わっている。正体は一部の人間しか知らない。

 赤いヒーローの姿をしたジュンヤは、戦うべき相手を見据えた。

 マスクで隠れている顔。生身はどこも露出していない。動作補助の繊維せんいはまるで筋肉。黒い服の上から黒い防具をまとった、ペジ・タイプジー。

 すこし離れた場所で光を反射する、黒い大きな視覚センサー。鎧のような防具も含めて、ソーグとよく似ている。

 赤と黒がこぶしを交えた。

(こいつ、違う)

 ジュンヤは、すぐに分かった。2回戦って、勝つ方法を見いだせなかった相手。あいつと姿は同じでも、別の動きをしている。よく見ると、すこし背が高い気もする。あいつじゃない。

 黒い怪人かいじんを圧倒する、赤い大男。

『シグスにならないのか?』

 返事はない。

『なんで、ベルトを狙う! 答えろ!』

『……』

『ファイナルアーツ!』

 ジュンヤには、相手が息をはく音が聞こえなかった。パンチを受け流し、カウンターでギアロードパンチをねじ込んだ。

 直撃により、エネルギーが解放される。黒色が宙を舞った。ふぞろいに積まれた石の山まで吹き飛ぶ。派手な音とともに、大量の粉塵ふんじんが舞い上がった。

『もういい。戻ってきて。ジュンヤくん』

 通信から聞こえた女性の声を、赤い大男は無視した。

『帰りましょう。一緒に』

 ジュンヤは答えない。ツバキの言葉に従わず、無言で黒い相手のほうへと歩いていく。

(ベルトを壊せば、きっと)

 砂が風に吹かれて、視界が戻る。相手に追い打ちをかけることはできなかった。別の黒い怪人かいじんが現れたからだ。自身よりも大きな体をかつぐ。

『ファイナルアーツ』

 怪人かいじんから、加工された声が聞こえた。ペジ・タイプピーがチョップを繰り出す。粉砕される石。あたりが砂ぼこりにおおわれて、煙幕えんまくのようになった。

『待てー!』

 ジュンヤが叫んだ。デトンシフトを使わずに撃退したことへの嬉しさは、なかった。

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