第二章 デトン

4話 新たな力 Aパート

「逃げ出すなんて、ヒーロー失格だ」

 なげく少年は、応接室にいた。椅子に座っていない。腕や脚の半分ほどを露出しているのは、薄着のため。白や灰色の内装に興味がないようで、落ち着きなく歩き回っている。

 部屋のドアが開いて、ジュンヤが振り返る。

「ツバキさん。なにか分かった?」

 髪の長い女性は答えない。続いてやってきたスーツ姿の男性が、少年を見つめた。女性が部屋のドアを閉めてから口を開く。

「タイプダブリューに対抗するためには、試作ギアを改良する必要がある」

「えーっと。誰?」

 七三に軽く分けた髪型の男性に、ジュンヤは会ったことがなかった。親しければ“おにいさん”と呼ぶくらいの歳で、身体の線は細い。ポケットから出したソーグのベルトが、目の前に差し出される。

雷古院らいこいんエイスケ。ツバキの上司、という認識で構わない」

 銀色の装置を受け取った少年が、頭を下げる。

「エイスケさん。ごめんなさい。オレが、もっとちゃんと戦えたら」

「あらかじめ爆発する仕掛けを作って、倒された振りをする。それで増長ぞうちょうさせたわけだ」

「そんなことに、気づけなかったなんて」

「まぁ“試作しさくギア”を、いや、ソーグのベルトをうばわれなかっただけマシだ」

 しばしの沈黙を破って、スーツ姿の女性が明るい声を出す。

「そう。特訓とっくんですよ」

特訓とっくん?」

「その力は選ばれた者にしか使えない。データを集めさせてもらえないか? ジュンヤくん

 言っていることがよく分からない。TVでやっているギアロード・ソーグだと、使える人が決まっている。でも、偶然ぐうぜんだ。たまたまこれを買ったから、ここにいる。

 ジュンヤは疑問を口にせず、スマートフォンのような装置を眺めた。別の質問を投げかける。

「なんで、怪人かいじんはソーグのベルトを狙って?」

なぞ組織そしき。いや、サイレント・シンジケートは力を求めている。世界を破壊するための、ね」

 略してエスツーと呼ばれている、なぞ組織そしき。人間ではない怪人かいじんを作り出し、意のままに操っている。どこまで悪の手が広がっているか分からないため、うかつに行動できないと言う。

 エイスケの話は、ギアロード・ソーグの設定に沿っていた。

特訓とっくんすれば、強くなれる?」

「それは、きみの努力次第だ」

「協力して。お願い」

 ツバキに言われる前から、答えは決まっていた。今日は休日。時間はある。目に力を宿したジュンヤがうなずく。

 放送されているギアロード・ソーグでは、まだ新しい力は登場していない。

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