3話 間違った力 Aパート

「カッコイイよ、なあ。やっぱり」

 鉄筋コンクリート造りの四角い建物。その三階で、少年が力説していた。

「そうだけど。敵の正体がわからないのが、ちょっと怖い、かな」

 右隣に座る少年は、正直な気持ちを述べた。前髪が顔を隠していないため、ノゾムの顔はよく見える。つられて困ったような顔になるジュンヤ。

 授業の開始が近づいている。生徒たちはみんな、席に着いていた。

怪人かいじんを、次々にやっつけていくんだぜ。ヤバイって。あれは」

 オレも戦ったから、怪人かいじんの強さを知ってる。なんて言えるわけがない。ヒーローはつらいぜ。

 不敵な笑みを浮かべるジュンヤは、胸の内を隠したまま。

「そんなにヤバイの?」

「そりゃ、そうだろ。って、気になる?」

 左から話に入ってきたフワへと、質問が返された。へっへっへっと、いじわるそうな笑いを加えて。

「別に。子供なんだから」

 小柄な少女は、机に頬杖ほおづえをついた。肩までかからない髪が、ふわりと揺れる。

「オレのほうが年上だろ?」

「ちょっと誕生日が早いだけで、ほとんど一緒でしょ」

「なんだよ。変身へんしんしたくないのか?」

「まあまあ。いいよね。変身へんしん。憧れるなあ」

 険悪な雰囲気になりそうなことを察知したのか、ノゾムが話を広げた。

「……」

 何も言わないが、フワの目は輝いていた。ジュンヤには、その理由が分かるはずもない。頭の中はギアロード・ソーグのことでいっぱいだ。

「なんだ。ギアロードになりたいんじゃないか」

「違う。知らないと思うけど、その前の番組でも変身へんしんしてるの」

「へぇー」

「それでね。変身へんしんについてなんだけど――」

「前の番組なんてどうでもいいだろ。ソーグの話をしようぜ、ソーグの」

 二人の会話を、ノゾムは黙って見ていた。入るタイミングをつかめていない様子。

「別に、それでもいいけど」

「なんだよ。どうせ、たいしたことないんだろ。前にやってる番組なんて」

「ジュン、最低」

 少女の声に、少年が眉をひそめる。はっきりと怒りが伝わってきた。ただ戸惑うばかりのジュンヤ。このときは、何が起こっているのかを理解できなかったのだ。

 チャイムが鳴った。先生の話が頭に入ってこない。

 そして、授業が終わった。


 部屋には、シャープペンシルの芯が山積みになっている。

 少年ともう一人が、簡素かんそなドアから中に入った。もちろん、テンペンが所有する建物。まだ暑いので、弱めの冷房がかかっている。

「木じゃないけど?」

炭素たんそだから、木よりも効率がいいらしいよ」

 スーツ姿の女性が、誰かの受け売りを披露ひろうした。得意気な顔で。風がないため、ツバキの長い黒髪はなびかない。

 小さな手が、お腹にある銀色の装置に伸びる。何も言わずにスイッチを押した。

「ソーグ、ジュンビカンリョウ」

 機械的な音声を無視して、ジュンヤが身体を動かす。すこし曇った表情で。

変身へんしん!」

 積まれた黒いものが光りだす。少年の身体に、光が巻き付くように集まってきた。手足が伸びているように見える。すぐに、ふた回りおおきくなった。

 光が消えた。大きな2個の視覚センサーが、黄色く輝く。天井からの明かりを反射したからだ。

『オレがヒーローだ!』

 ソーグが決め台詞を言った。能力を解放していないため、動きはぎこちない。筋肉のように見える動作補助どうさほじょ繊維せんいが形無しだ。腕や脚の赤い防具はもちろん、胴体や肩の赤い部分も重そうに見える。

「元気ないみたいだけど。ジュンヤくん、大丈夫?」

『大丈夫だけど。それじゃ、行こう』

 ジュンヤではない声が、カラ元気を出した。ツバキの説明によると、正体を隠すために声が変わるらしい。

 部屋から出て、歩く二人。一人の女性と一人の筋肉ダルマは、黒い自動車に乗り込んだ。

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