3話 間違った力 Bパート

 黒い怪人かいじんが2体あらわれた。

 場所は、映画の撮影所さつえいじょ。たまたま撮影がなかったため、すぐ異変に気づいたのが不幸中の幸い。

 だが、街中を通らなければたどり着けない。これでは、ヒーローが走って移動するわけにはいかない。見物人が集まると、被害を防ぐのが難しくなってしまう。

「私はここまでね。気を付けて」

了解りょうかい

 駐車場に止まった車のドアが開く。赤い大男が降りた。

「ツウワカノウ」

『許可』

 銀色のベルトから声がして、ソーグが答えた。

 ツバキからの通信が聞こえる。

『情報が錯綜さくそうしていて、詳しいことが分からないから。無理しないでね』

『はい』

 一歩踏み出すと、歩みを止めた。

『ソーグ。使用開始しようかいし!』

「ノウリョク、シヨウカノウ」

 衝撃吸収用の防具が折れ曲がり、動きやすくなる。同時に、ソーグとしての驚異的きょういてきな力も使用できるようになった。

 建物に近づき、金属製の扉を軽々と開けるソーグ。内部へと向かう。


 コンクリートで固められた足元。広場のようだ。

 横になっていた黒いものが座って、立ち上がった。ペジ・タイプピーと呼ばれる怪人かいじん。この前よりも、すこし背が低く見える。

 薄暗い建物内が、明かりに照らされる。灰色の床がよく見えるようになった。天井にならぶ照明のスイッチが入れられたことを意味する。

『もう1体のほうか』

 ソーグの声に答えるように、右側から黒い影が現れた。ペジ・タイプピーのほかに姿を見せたのは、未知の怪人かいじん。大型で、防具の形状も異なる。

雷古院らいこいんさんの予想通り、タイプダブリューを投入してきたみたい』

『ちょっと、でかいからって!』

 通信を無視し、赤いヒーローが殴りかかる。軽くあしらわれた。怪人かいじんが左腕を構える。

 まずい。

 ジュンヤは悟った。相手の筋肉量と背の高さから、力が強いことを。攻撃力も防御力も互角かそれ以上だと、いまの動きで分かった。動きが遅いのが救いだ。それでも、うしろに跳ぶのは間に合わない。

 ソーグが身体を左にひねり、床を転がる。

 岩を砕くような激しい音とともに、砂ぼこりが舞った。床にヒビが入り、大きくへこんでいる。

(なんだよ、これは)

 少年は恐怖した。使っている力は、こんなにも簡単に壊すことができるものだったのか、と。力をぶつけられることの意味と、関係ないものが壊される痛みを知った。

『やっぱり、こんなのダメ。今すぐ、そこから離れて!』

 ツバキに返事はしない。なぜなら、ジュンヤの心は決まっていたからだ。

『こんなやつを、ほっといちゃいけないんだ!』

 ペジ・タイプダブリューに蹴りかかるソーグ。左腕で防ぐ怪人かいじんからは、余裕すら感じられる。

 脚を戻し、左腕で殴ろうとして、ジュンヤは気付いた。相手の右腕に。

(番組だと、簡単に倒してたのに)

 ドガッ。鈍い音がした。

 両腕で怪人かいじんのパンチを受けたソーグは、建物の端まで吹き飛ばされた。緑色の壁に使われている金属が震えて、高音が鳴り響く。

『ファイナルアーツ!』

 すぐに立ち上がった赤いヒーローが、大きな怪人かいじんを見つめる。勢いよく走り出した。

 そして、攻撃しなかった。近くで傍観ぼうかんしていたもう1体の怪人かいじんへと向きを変える。すかさず、ギアロードキックを放つソーグ。油断していた相手に、跳び蹴りが決まった。

 ペジ・タイプピーが吹き飛び、再び鳴り響く高音。

『爆発しない? なんで……』

『タイプダブリューは遅いから、今の内に逃げて』

『でも、こんなのって』

『早く!』

 ジュンヤが走り出した。建物から出ると、黒い自動車が止まっている。ドアを開け、すぐに乗り込む。走り出した。

 シートベルトを着用済みのソーグが、うしろを振り返る。怪人かいじんは、外に姿を見せなかった。

「ジュンヤくんは、よくやったよ。絶対に、正体を悟られないようにね」

 変身へんしん解除かいじょした少年は、右手をかたく握り締めていた。

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