8話 怪人の正体 Bパート

 白い自動車から降りるソーグ。

 テンペンが所有する建物の中で、変身へんしん解除かいじょされる。光に包まれた大男が、年相応の体格をした少年の姿へと戻った。光が消える。

 暖かそうな服装のジュンヤは、家に戻らなかった。

「なんで、誰も教えてくれないんだよ」

 思路川しろがわ河川敷かせんしき。短い草にびっしりと覆われた、川表の斜面に座っている。

 まえに変身へんしんした場所を見ていた。まだ暑かったころ、鉛筆えんぴつが大量に置かれていた場所を。背の高い植物が茂り、今どうなっているのかは見えない。

 視線を水に移す。雄大な流れを見つめる瞳には、力がない。空は泣きそうな色。

 誰かの気配を感じたジュンヤが振り向く。アキラがいた。同じクラスの女子のお兄さん。こげ茶色のロングコート姿で、なんだか重そうに見える。量の多い髪が、風に遊ばれた。

 笑顔になった少年に、男性が声をかける。

「ベルトを渡せ」

 何を言われたのか、少年はすこし考えた。

「え?」

「喋るな。これ以上、関わるな。あとは、おれがやる」

 なにがなんだか、ジュンヤには分からなかった。だが、言うべきことがある。立ち上がって、アキラのほうを向いた。

「なにが起こってるのか、教えてくれ!」

「何度も言わせるな。知らない方がいい」

 整った顔立ち。引き締まった表情を変えない。

 いつものアキラとは、雰囲気が違った。優しくて、さわやかな笑顔で、どこか抜けたところのある人。宿題を見てもらったことを思い出して、幼い顔が複雑にゆがむ。

「ベルトは渡さない。あの力は、簡単に使っちゃいけないんだ」

 少年が断った。

「力に善も悪もない」

 こげ茶色のロングコート姿の男性が、黒いベルトを取り出した。知らない人にはスマートフォンに見えたかもしれない。

「ベルト? ウソだ。ウソだ!」

 コートの前が開かれて、黒いベルトが腰に装着された。コートの中は黒い。炭素繊維たんそせんいが固定されている。材料としてじゅうぶんな量だということを、ジュンヤは知っている。

 スイッチが押された。

「ジュンビカンリョウ」

変身へんしん

 光に包まれて、アキラが黒い姿へと変わった。ソーグによく似た、ペジ・タイプジーへと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る