概要
※2018年8月26日に新しい章を追加しました。
※2020年6月30日
性表現を削除しました。完全版はいずれどこかに掲載する予定です。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!うまく行かない理由は、多分空気の中に変なものを混ぜ込まれたせいで
第一話で頭がおかしいオヤジが語る内容に
「俺らが考え過ぎると困るやつらがな、空気の中に変なものを混ぜて垂れ流してんだ」
「その空気吸っちまうとな、もう何も考えられなくなんだ。生まれた理由、生きてる理由、一切合切な、全部忘れて生きるだけになっちゃうんだ」
というものがあります。
人間生きているとうまく行かないことがある。どうしたって出てくる。
それを悪魔のせいにしたり前世のせいにしたりするのが宗教で、『空気の中に変なものを』入れられたせいにするのが頭がおかしいオヤジなわけです。
でも、このなにか「誰かのせいでどうにかなっちまった」という感覚は、幼い頃から誰にでもあるものではないかなと思うのです…続きを読む - ★★★ Excellent!!!「傷」は誰にでもあるが見たくない人と見えない人がいる
実は公開当時に読んではいたのですが、そのあまりに独特な『世界の歩き方』に感想を寝かせていました。
このままではいかん、この世界を『ああ、変な空気を吸ったなあ』で終わらせてはいかんと、令和最初の年末に考え直したわけです。
改めてリラックスした状態で読み返すと、これがまたとても素直に胸にしみて、笑顔で内臓をぐりぐりしてくる系。
第一部は傷を様々な角度でみて、治癒しようと試みるかと思いきや時間を変えて貼りかけたかさぶたをいじくりまわす。
そんな「癒しの時間になると思った? んなわけないよ」と言い続ける作者の目の奥の涙を見るのが楽しかった。
そして第二部は、第一部でいじくった傷に、何としてもかさ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!圧倒的な世界観と語り口に引き込まれる大人向けの冒険小説
少年時代にやり残したことを果たしに行く。
狂気をはらんだ“僕”の冒険譚は、他人事のようで、自分のことを投影しているかのようだ。
ミステリアスな物語の中に90年代エンタメへのオマージュをそこかしこにちりばめるユーモアセンス。それに共感できると、より、この狂気な物語の中に引き込まれる。
言ってみれば、これは80年代後半から90年代に青春を過ごした人たちに送る「あの頃の僕の冒険小説」なのだろう。
同世代で小説好きな人は必読。また、タグが気になった人も読んで損はない(むしろ読まないのはもったいない)。
「空気の中に変なものを」、「花火は何故打ち上がったか」の2部構成。
第2部は続きというよりも…続きを読む - ★★★ Excellent!!!きもちわるい小説(ほめ言葉)
実はこの作品、冒頭の頭のおかしいオヤジの存在が受け入れられず、一話だけ読んで長い間つづきを読むことをためらっていた。
著者とともに同人誌に参加する機会に恵まれたのだが、そのとき拝読した参加作があまりにも『きもちわるい小説』(ほめ言葉)だったため、氏の代表作とも言える本作もきっと同じテイストに違いないと確信し、意を決して一気に読むことにした。
結果、つきなみみな言い回しで申し訳ないのだが「どうしてもっと早く読まなかったのだろう」と後悔することになる。
文芸的に良い作品はえてして、心の奥の暗い部分というか、知らぬ間に降り積もっている澱というか……人間の中の見て見ぬ振りをしたくなる部分に、光を当…続きを読む - ★★★ Excellent!!!恋は、遠い日の花火である。
恋は、遠い日の花火ではない――言わずと知れたサントリー・オールドの名コピーである。昔、これに憧れ、いつか情熱大陸に出るんだと豪語していた広告屋の同僚がいた。尻で踏むハヅキルーペのCMが成功(?)を納める今、なまぬるい感慨を抱かずにはいられない。
さて、本作。二部構成になっており、一部は消えた初恋の少女を追い求める復讐劇であり、二部は対照的にひと夏の青春劇となっている。が、〝花火〟を軸に回すと模様が浮かび上がる独楽のような、たくらみが仕掛けてある。
正直なところ感想は難しい(実際、初読の時は逃げた)。恋はやっぱり遠い日の花火で、上から下か見るかで色も形も美しさも違う。多分。心持ちにより変わって…続きを読む - ★★★ Excellent!!!日常に溶け込む本物と偽物
好きという気持ちは、ただ一方向に進んでいく感情ではない。
対岸に渡る時、遠回りして橋を渡っていってもいいし、最短ルートで川の中を進んでいってもいい。しかし、どちらにしても確実に対岸に到着するとは限らない。
橋は通行止めになっているかもしれない。川の流れが早くて流れされてしまうかもしれない。
安全性も確実性も、好きという気持ちの先には存在しない。
この話には好きという感情に振り回される男が二人、滑稽に見えるが、その実世界の変革よりも強い力で好きを伝える。
二人はやり遂げる。
それで何が起こるのか?
結局たいした事は、何も起こらない。それが生きるという事なのかもしれない。
しかし、確かに二人は…続きを読む - ★★★ Excellent!!!初恋の人の為に悪に立ち向かったり花火を打上げたりできなかった全ての人へ
この作品は、自意識と性と生の感覚が不安定だった思春期のあの頃を、非常にリアルな質感を持って想起させる2章立ての物語です。
表題でもある『空気の中に変なものを』は、思春期時代の瑕疵を背負ったまま大人になった主人公が、かつて救えなかった初恋の人を助けようとするお話。
ここでは「かつての初恋の人を助ける」という『目的』が強く描かれており、過去や現実のあるべき姿が奇妙にねじれていく感覚が大変に印象的でした。
一方の『花火は何故打ち上がったか』は、思春期真っ只中の少年が、初恋の人との約束を果たすために、周囲を巻き込んで花火を打ち上げようとするお話。
こちらは1章とは対照的に、目的に向かっていく『過…続きを読む