初恋の人の為に悪に立ち向かったり花火を打上げたりできなかった全ての人へ

この作品は、自意識と性と生の感覚が不安定だった思春期のあの頃を、非常にリアルな質感を持って想起させる2章立ての物語です。

表題でもある『空気の中に変なものを』は、思春期時代の瑕疵を背負ったまま大人になった主人公が、かつて救えなかった初恋の人を助けようとするお話。
ここでは「かつての初恋の人を助ける」という『目的』が強く描かれており、過去や現実のあるべき姿が奇妙にねじれていく感覚が大変に印象的でした。

一方の『花火は何故打ち上がったか』は、思春期真っ只中の少年が、初恋の人との約束を果たすために、周囲を巻き込んで花火を打ち上げようとするお話。
こちらは1章とは対照的に、目的に向かっていく『過程』が丁寧に描かれており、まさに花火のような刹那的なきらめきに胸を打たれる思いがしました。

2章の爽やかな読後感も素晴らしいのですが、1章の不条理な「ねじれ感」こそが、この作品独特の世界観を形作るものだと思います。
この文章でなければ表現できない空気感が、絶妙に心地悪くて心地いい。

多くの人が「マシンガンを持ったテロリストが教室に侵入してきた」みたいなことを経験しないまま大人になっちゃったと思いますが。
スーパーヒーローになれなかった僕たち私たちが、あの頃思い描いたようなIFを濃密に追体験できる作品でした。

うまくまとまらない感想になってしまいましたが、ものすごく面白かったです!

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