森林が生態系のイニシアチブを握り、地上から離れた高層で人の生活が営まれる、文明崩壊後の世界。
まるで古代に戻ったかのごとく、竜と呼ばれる存在に生贄を捧げる風習をもつ人々。
冒頭から紡がれる情景と事象にリアリティがあり、一気に引き込まれました。
物語は、竜を呼ぶ声を持つ若き神官・イーレンと生贄の少女・ユゥラの出会いによって、大きく動き始めます。
儀式を失敗させ、竜の開けた縦穴から下層へと落ちた二人は、そこで世界の真実を知ることになるのです。
種の存続の危機に晒された時、我々はどのように命を繋ぐのでしょうか。
上層の人々の儀式も、下層の人々の科学技術も、生きるための叡智に他なりません。
また神のように扱われる『竜』とは何なのか、その生態に触れた時、生きとし生けるものはみな大いなる自然の理の一片に過ぎないのだと感じました。
生命の倫理、同じ世界に在るもの同士の因果、大切な誰かを求める心。
ただ「生きる」ことが、こんなにも難しく、そして愛おしい。
社会の大きな変革を予感させるラストシーンにも、想像を掻き立てられました。
素晴らしいポストアポカリプスでした。ぜひぜひご一読ください!
地上が森に覆われ、さらに森が重なり層を作る世界。高度な文明を失い、人々は樹上で生活をし、古代のような儀式を送っている……この世界観がもうたまりません。心揺さぶられます。
過去の儀式により表情筋に難を抱えた、神官のイーレン。竜の花嫁として次の儀式の生贄となる少女、ユゥラ。
儀式の日にイーレンが取った行動により物語は大きく深く進んでいきます。
樹上生活での宗教的な儀式や人々の暮らし、風景、心情。下には多層森林の中で育まれている独特の生態系など、緻密な世界観や生き生きとしたキャラクターに惹き込まれます。
読み進めるうちに、まさに多層な展開を見せる物語の面白さに読む手が止まりません。イーレンとユゥラの、少し不器用な、互いを想う深い優しさと愛情に心が温まります。
終末世界、ファンタジー、サバイバルな要素、そしてSFといった様々な要素を存分に味わえます。独特の魅力が何層にも重なった、素敵な作品です。
森林爆発。高く多層に広がる森林に地上を覆われ、かつての文明が失われた終末後の世界。
過去の儀式のトラウマで正常な表情が出せなくなった神官のイーレンは竜の花嫁──生贄の少女ユゥラに恋をしました。
再び抉られる心。悲壮な覚悟。そして決断。
重い行動を起こしたイーレンに胸が熱くなります。
そして舞台は多層森林の中へ。
特殊な生態系は未知の連続で厳しいサバイバルが始まりますが、博識なイーレンと好奇心旺盛なユゥラは楽しそうに探索していきます。
そして森深く、地表に機械文明が残っている事を見つけました。
そこで儀式の意味を知り、竜を知り、上層と地表、多くの人間の運命をも変えていきます。
樹上の文化や信仰、独自の生物達、生き残り発展した科学技術。どれもが十二分な説得力をもって描かれており、世界が緻密に構築されていました。
ガラッと変わる展開は常に新鮮な気持ちを呼び、グイグイと読み進めたくなります。
複雑な要素を纏め上げ、多様な魅力を持ったこの作品をオススメします。
ジャンルとしてはポストアポカリプスファンタジー、という感じでしょうか。遠い過去に優れた科学力で発展した世界だったのが、今や植物の上に植物が生える多層構造。倒木更新なんて生易しいものではなく、森に森が積み重なり、人々は大地から引き離されたという世界です。
口伝のように過去は継承されているけど科学力はすべて失って、古代に戻ってしまったかのように人々は竜を神と崇め、十年に一度生贄をささげる事で竜を呼び森に縦穴をあけ、遥か下にあるはずの大地とのつながりを維持している…。
もうこの世界観が素晴らしくて、儀式や宗教観、人々の心理等が「こういう世界がある」というリアリティをもっていて、ぐっと物語に引き込まれます。
歴代最高峰の実力で竜の声が出せる主人公イーレンは、初恋の人を嫁入りと称した生贄の儀式で失ってからは表情筋がバグってしまい、見た目の様子がちょっとおかしくなってますが、その性格はとても好感が持てます。そんな彼が二度目の恋をしたのだけど、なんとその娘ユゥラは次の生贄。しかもイーレンが竜を呼ぶ役目を果たさないといけないという。
こんな悲恋と悲劇を許していいのだろうか。何故生贄が必要なのだと、読者もぐっと力を入れてこの世界を恨むなど、主人公イーレンの気持ちとリンクしてしまう。
その時イーレンが取った行動とは!
彼の行動がこの閉塞した世界にどんな風穴を開けるのか。
イーレンとユゥラの恋の行方は。
失われた科学との出会い等、次々と話は盛り上がり展開するので、一行たりとも目が離せません。