きもちわるい小説(ほめ言葉)

実はこの作品、冒頭の頭のおかしいオヤジの存在が受け入れられず、一話だけ読んで長い間つづきを読むことをためらっていた。
著者とともに同人誌に参加する機会に恵まれたのだが、そのとき拝読した参加作があまりにも『きもちわるい小説』(ほめ言葉)だったため、氏の代表作とも言える本作もきっと同じテイストに違いないと確信し、意を決して一気に読むことにした。
結果、つきなみみな言い回しで申し訳ないのだが「どうしてもっと早く読まなかったのだろう」と後悔することになる。

文芸的に良い作品はえてして、心の奥の暗い部分というか、知らぬ間に降り積もっている澱というか……人間の中の見て見ぬ振りをしたくなる部分に、光を当てて描いている。そういう部分を描けば描くほど、必然的にきもちわるくなってしまう。つまり、良い作品ほど『きもちわるい小説』という事になる。

この作品は、本当に『きもちわるい小説』だ。本当に『最高』だ。

個人的な好みに基づいて言うならば、やはり頭のおかしいオヤジは受け入れがたく最後まで存在の必然性が判らなかったし、タイトルの『空気の中に変なものを』をもっと効果的に回収すれば完成度が高まるだろうと思うし、もっと読み手を煙に巻くほどねじれた構成にしても良かったんじゃないかと思う。

だけど、そんな事は些事だ。どうでもいい……。
全体を俯瞰して見てみると、作品の世界観を醸すことに成功しているし、それはとてもきもちわるくて最高だ。

後半の追加パートの是非については、俺の中では保留中……まだ消化できていない。
だけど、前半部分とは全く違う空気で描かれる青春劇はとても素敵だったし、サラリときもちわるい描写を挟み込んでコントラストを高めるあたり流石だと唸るしかないし、前半部分にも巧くリンクしてると思う。

ただ、後半パートの読後感の爽やかさが、前半部分のきもちわるさを中和しているのはずるいと思った(笑)

レビューと言うよりも、読書感想文みたいなことしか書けていないのだけれど、長くなってしまったしこの辺で終わっておこうかと思う。

最後くらい、レビューっぽいことを言っておくべきだろうか……。

実は『きもちわるい小説』を読むことは、最高にきもちいいことだ。
だからぜひ、この作品は読んだ方がいい。
少しだけ人生が豊かになるよ……知らんけど(免罪符)

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