「傷」は誰にでもあるが見たくない人と見えない人がいる

実は公開当時に読んではいたのですが、そのあまりに独特な『世界の歩き方』に感想を寝かせていました。
このままではいかん、この世界を『ああ、変な空気を吸ったなあ』で終わらせてはいかんと、令和最初の年末に考え直したわけです。
改めてリラックスした状態で読み返すと、これがまたとても素直に胸にしみて、笑顔で内臓をぐりぐりしてくる系。

第一部は傷を様々な角度でみて、治癒しようと試みるかと思いきや時間を変えて貼りかけたかさぶたをいじくりまわす。
そんな「癒しの時間になると思った? んなわけないよ」と言い続ける作者の目の奥の涙を見るのが楽しかった。

そして第二部は、第一部でいじくった傷に、何としてもかさぶたを貼ろうとするお話。貼ったそばからはがされてしまうけど、何度でも貼ろうと試みる、本能の愛おしさ。

青春時代にきちんと「悲しむ」事を知った人はもちろん、知る機会を逃してしまった人も、この物語を読んで悲しめばいい。

そんなお話。

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